クリエーティブ・ビジネス塾16「アンディ・ウォーホル」(2014.4.15)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、ポップアート
抽象絵画、アニメもどきの絵、大きなフィギュア・・・なぜ現代アートはわかりにくいか。それはパブロ・ピカソ(1881~1973)に原因があります。普通の意味での絵画はピカソで終わってしまったからです。ピカソはなにを描いても上手かった。つまりなにを描いてもピカソに勝てない。絵画でやるべきことは全てピカソがやってしまったからです。
残された芸術家がやるべきことは絵画を破壊し、新しい美を創造することでした。アンディ・ウォーホル(1928~1987)のポップアートもそのひとつです。ポップアートの「ポップ」は「popular」の略で、人気がある、大衆的な、わかりやすい、などを意味する言葉です。無理に訳せば「大衆芸術」ですが、「ポップアート」とそのまま使われます。1960年代の「ポップアート」は、最先端の芸術を意味し「前衛芸術」のことでした。
ドル紙幣、コカコーラ、スープ缶を写真を加工し並べただけの作品があります。大量生産され大量消費される商品の陳列です。映画女優のマリリン・モンロー、歌手のエルビス・プレスリー、ケネディ大統領夫人のジャッキーの写真を加工し並べた作品もあります。さらにビルから飛び降り自殺する人の写真、自動車事故の生々しい写真、さらには死刑用の電気イスを写真を並べ加工した作品もあります。大量生産、商業主義、マスコミの時代、複製時代、スーパースターの時代、そして大量死時代、ウォーホルのポップアートはまさしく(当時の)「現代」を描くのに成功しています。
2、破壊と創造
アンディの「マリリン」(マリリン・モンロー)は、現代の「モナリザ」です。レオナルド・ダ・ヴィンチ(
1452~1519)は人物をしっかりデッサンし、背景をつけ彩色し、あたかもそこにモナリザという女性が生きているかのようにいるかのように仕上げました。誰が見ても上手いと思う、たった一枚の傑作の誕生させました。アンディはレオナルドと正反対のことをしました。まずデッサンをしない。ありふれたマリリンの写真をベースに顔の輪郭だけ使い、大胆な配色をしました。髪は黄色、肌は紫、アイシャドウは緑、唇は赤、そして背景は何もなしの緑一色です。このマリリンを複写によって配色を変えて並べました。しかも制作はシルクスクリーンですから、何枚も同じものを印刷することができました。一枚限りの傑作ではありません。番号が打たれ同じ作品が出荷されました。
「ジャッキー」も現代の「モナリザ」です。ケネディ大統領が1963年に暗殺されます。「ジャッキー」は、その悲劇の日のジャクリーヌ大統領夫人の写真を集め、加工し配列したものです。笑顔、幸福、恐怖、惨劇、失意、悲嘆、虚無・・・ジャクリーヌ夫人の悲劇が再現されています。時間が止められ、悲しみが永遠に封印されています。私たちは50年経っても「ジャッキー」を前にして、涙を流します。新しい美が創造されました。アンディはポップアートで、破壊と創造をやってのけました。
3、表現
創造や芸術表現とは「不易流行(ふえきりゅうこう)」です。不易とは永遠に変わらぬものです。流行とは文字通りその時代の新風、はやりです。「本歌取(ほんかどり)」という言葉もあります。和歌の世界で昔の歌を土台にしながら、新しい歌を読むことです。パブロ・ピカソも、本歌取の名人でした。過去の絵画の構図をそのまま使い、現代風に描き改め、傑作を生み出しました。
芸術家やクリエーターはふたつの顔を持っています。詩人と職人です。
アンディは絵が上手い人でした。50年代に広告のクリエーターとして出発したアンディは、靴の広告で可愛らしいイラストを残しています。
『アンディ・ウォーホル展』(2014.2.1~5.6 六本木ヒルズ・森美術館)には、段ボールに「タイム・カプセル」と称して、アンディが残した私的な収集品が展示されています。カタログ、雑誌、切符、手紙、写真・・・そこにはオタクの机の中のように宝物が詰まっていました。当時40代の後半、超有名人、世界をリードするアーティスト、でもアンディはまさしく少年の心を持った詩人でした。
まず古典を学びましょう。次は技術の鍛錬です。職人になるのです。そしていまいるカリスマ(権威)を打ち倒します。あなたが主役になる。詩人の心で創造するのです。