クリエーティブ・ビジネス塾22「ディズニー・アニメ」(2014.5.5.28)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、大ヒット
ディズニーの新しいアニメ映画『アナと雪の女王(Frozen)』(2013年米国)がヒットし快進撃を続けています。まず第86回アカデミー賞で長編アニメ賞と主題歌『レット・イット・ゴー(Let it go)』で歌曲賞を受賞しました。つぎに興行収入で歴代アニメ映画の世界最大ヒットになりました。すべての映画の中でも現在5位、まだお客を集め続けていますから、トップの『アバター』を追い抜くことは無理にしても、さらにランクを上げそうです。日本でも興行収入200億円突破、『千と千尋の神隠し』、『タイタニック』、『ハリーポッターと賢者の石』に次ぐ大ヒットになっています(日経5/28)。魅力の第1は、レリゴー!(Let it go.)歌です。魅力の第2は、主人公のふたりがセクシー、好きになれることです。そして第3はわかりやすい。人種や人権問題の難しいテーマがないことです。日本版の吹き替えも好評です。姉と妹の友情と愛の物語を、姉のエルサ・松たか子、妹のアナ・神田沙也加が演じています。ふつう、外国映画で吹き替え版が高く評価されることはありませんが、この映画では評判がいい。とくに主題歌を歌う松たか子が魅力的です(「松たか子と神田沙也加に花束を」長谷部日出雄 『オール読み物』6月号 文芸春秋)。そしてこの映画にはディズニーアニメ80年の歴史にディズニー初の試みがあります。監督・脚本に女性、しかもダブル・ヒロイン、女性の主人公がふたりいます。女性の視点で作られている映画であることです。
2、愛国者ウォルト・ディズニー(1901~1966)
なぜ女性の視点が画期的かというと、ディズニーはアメリカ合衆国の男性として愛国者として、育っているからです。まずウォルトは、男4人兄弟の末っ子、妹ひとりの5人兄弟で育ちます。少年時代は貧しかった。それも半端ではない貧しさ。兄の3人が全て家出してしまうほどでした。ウォルトは朝3時半に起きて新聞配達をしていました。薬局の配達もしました。夕刊もありました。9歳のときから6年間やりました。ともかく父が厳しかった(『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』p.17~22 ニーズ・ゲイブラー著 中谷和男訳 ダイアモンド社)。父は新聞配達の金をウォルトから取り上げていました。つぎにウォルトは17歳のときに年齢を偽り、第1次世界大戦のフランスに行き赤十字救援部隊のドライバーとして働いています。動機は愛国心とかっこいい制服へのあこがれでした。第3にウォルトは第2次世界大戦のときに米軍に協力し、長距離爆撃機で敵を直接粉砕するという内容の『空軍力の勝利』という映画を制作しています。そしてディスニーランド。なによりも「ディズニーランドは、アメリカという国を生んだ理想と夢と、そして厳しい現実をその原点とし、同時にまたそれらのために捧げられる」(『ウォルト・ディズニー 創造と冒険の生涯』ボブ・トマス 玉置悦子/能登路雅子訳 p.263 講談社)ものだったのです。
3、新伝説
男性的、たしかにディズニーのアニメーションには、そうした伝統があります。お姫さまは王子様が助けてくれるのをいつも待っていました。だから『アナと雪の女王』は新しい。その他にもディズニーにはさまざまな創造の伝説があります。まず第1はディズニーがアニメを描かなかったことです。少年時代のウォルトはマンガ(cartoon=カーツーン)に熱中していました。しかしミッキーマウスを描いたアブ・アイワークスの登場で描くことをあきらめます。彼の方が上手いからです。でもこれは大成功。ウォルトは高い位置からの企画やプロデュースに専念できました。第2にディズニーは原作を開発していません。白雪姫、シンデレラ、ピノキオ・・・ヨーロッパの童話を原作にしました。『アナと雪の女王』もアンデルセンの童話が原作です。そしてもうひとつ、ディズニーには「アニメーション芸術」の伝統があります。いまから80年前1934年から制作が始まった長編アニメ映画『白雪姫』は大成功を収めます。しかしウォルトの夢は次回作『ファンタジア』にありました。ファンタジーが音楽のかたちをとるもの、芸術と呼べるもの、間違いなくアートになるもの、映画の歴史を変えるもの。『ファンタジア』は1940年に米国で公開され大評判になります。そして戦後日本に輸入され少年少女だけでなく大人たちまでも虜(とりこ)にし、ディズニー伝説を不滅のものにします。『アナと雪の女王』もまたディズニーアニメの新たな伝説になるのでしょう。