ハンバーガーの時代は終わるのか。

クリエーティブ・ビジネス塾14「マックの危機」(2015.4.1)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、終わりの始まり
日本のマクドナルドが13ヶ月連続で売上高を減らしています。2月は前年同月比28.7%の減収。さらに利用客は22ヶ月連続でマイナスを記録しています。ピンチです。なにが起きているのでしょうか。
原因はいろいろ。まず14年7月に起きた使用期限切れの鶏肉使用(上海福喜問題)、今年1月に相次ぎに起きた異物混入、さらに商品・サービス戦略の迷走があります。しかしマクドナルドの低迷は、一時的な原因による日本だけのものではありません。米国でも15%、ヨーロパでも14%、売上げを減らしています。
マクドナルド・ビジネスで億万長者になった米国人がたくさんいます。マクドナルドはアメリカン・ドリームでした。またマクドナルドは、マーケティングの教科書でした。ファスト・フードのビジネスモデル、ブランド戦略そしてマクドナルド兄弟をあと継いだ第2の創業者レイ・クロックの成功物語は、誰もが学ばなければならないビジネス伝説でした。そしてなによりハンバーガーは米国人を米国人たらしめる国民食でした。かつてタイガーウッズは、マスターズでの優勝を明日に控え報道陣のインタヴューに対して、家に帰ってハンバーガー食べて寝るよ、と答え優勝しました。ハンバーガーの時代は終わるのでしょうか。
2、サラ・カサノバ
3月25日の株主総会日本マクドナルド社長サラ・カサノバは、株主に使用期限切れ鶏肉問題に陳謝し、業績回復のための新たな経営計画を打ち出しました。それは、1)食の安全。生産地、工場、物流、店舗まで一貫した品質・衛生管理をする。2)新監査体制、食の安全サミット、食品安全会議、食品の安全と品質管理のトレーニングプログラムで、品質管理強化策を追加導入する。3)2015年度戦略として「お客様と心でつながるモダンバーガーレストラン」をビジョンに掲げる、というものです。
サラのスピーチは、apologize(おわびする)、safety(安全)、recovery plan(復帰計画)、customer first(お客様第一)だけが、耳に残るものでした。そして示されたのが「Modern Burger Restaurant」でした。モダンとは「つねに時代に合わせて進化する最先端のブランドあること」と説明されています。でも残念ながら「モダン」という日本語にそんな響きは全くありません。サラへの期待は裏切られました。
マクドナルドの終焉を予言しているベストセラーがあります。「マクドナルド 失敗の本質」(小川孔輔 東洋経済新報社)です。小川は第1にマクドナルドを壊した犯人として米ヘッジファンドをあげます。ハンバーガーを売って利益を上げるのではなく、フランチャイズ(FC)からの不動産リース収益を増やそすことに経営の軸足が移させました。日本では2007年に米国から着任したデイブ・ホフマン上席副社長により実行されました。2007年のFC比率29%が、2010年には60%に。さらに2010年には486店が一斉に閉店されます。社内の話題は、メニュー開発、店舗開発、人材育成ではなく、収益改善、FCとの利益配分、販売管理費削減になります。第2の犯人は経営者。原田泳幸前社長です。原田は短期的にはマクドナルドの救世主として評価されましたが、いまではマクドナルドの破壊者となっています。閉店とFC化により本部、FC店、従業員の信頼関係を壊しました。かつてのFCはマクドナルドの経験者だけに許された特権でした。サービスの伝統は受け継がれなくなり、現場の働く気力を奪うようになり、マクドナルドは現場から崩壊します。
3、ブランド
第1に、お客さまはマクドナルドをおいしいと思っていない(p.149)。モスはもちろん、吉野家より低い評価。もうひとつの深刻は、100円コーヒーや無線LANの長居客が集まり、ファミリーが寄り付かない。
第2に、従業員。「マクドナルドで人との接し方や礼儀作法を覚え(中略)自らの成長を楽しみに働く」(p.142~143)場所ではなくなってきている。マクドナルドで働くことがキャリアを積むことにならない。
第3は、世間。世の中はスローフード、ヘルシーブーム。マクドナルドには食べたいメニューがない。現在ファストフードの世界ナンバーワンは、サンドイッチのサブウェイ。ベジタブル、野菜。わずか2年前、若者たちのマクドナルド・ブランドへの絶大なものがありました。しかしいま、若者たちの評価は劇的に変わり、マクドナルド離れが始まっています(p.182)。
近江商人の教え「買い手よし、売り手よし、世間よし」に照らしてみると、マクドナルドはどこにもアドバンテージがなくなってきています。マクドナルドが日本に上陸して45年、これまで何のイノベーションもせずに、今日まで来ました。このままでは、ハンバーガーの時代は、終われない。