大滝詠一さん、ことしはエルビス生誕80周年です。

クリエーティブ・ビジネス塾13「大滝詠一3」(2015.3.25)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、「いかすぜ!この恋」
アルバム『大瀧詠一』(ファースト)のなかに「いかすぜ!この恋」があります。これはエルビス・プレスリーの曲名だけを使って歌詞を作り、曲をつけたものです。「♫やさしく愛して 冷たい女 本命はお前だ 今夜はひとりかい 胸が燃える(た)ぜ 冷たくしないで 僕の天使 きみの気持ち教えてね どっちみち俺のもの いかすぜ!この恋 マリーは恋人 忘れ得ぬ人 あなたを離さない・・・・」、30以上の曲名が並びます。
タイトルの「いかすぜ!この恋」は「It feels so right.」です。日本語のタイトルだけだと、どの曲だかわかりませんが、ふつうのエルビスファンだったら、だいだい知っている曲です。大滝さんが作った曲は簡単なロックですが、ボーカルがいい。本当に大滝さんが歌ったの(失礼!)、と思うほどいい。佐々木功(アニソン・シンガー)やほりまさゆき(エルビスだけのアマチュア歌手)のようにうまい。エンディングの盛り上げもいい。「♫いかすーぜ ♫いかすーぜ この恋〜」は聞かせます。洒落れた冗談になっています。
ただ、エルビスのバックボーカル「ジョーダネヤーズ(The Jordanaires)」をまねてのギャグ「冗談じゃねーやーず」はあまりに無教養。ジョーダン・リバーとはキリストが洗礼を受けた川です。エルビスは全米のキリスト教徒が崇拝するゴスペル・シンガーでもあります。もひとつ、リメイク時に「いかすぜ!この恋」のタイトルを「烏賊酢是!此乃鯉」にしたのも下らない。いまでは、こんなギャグは中学生でも使わない。
2、大滝詠一ジュークボックスから「エルヴィス・プレスリー篇」
大滝詠一さんの自宅のジュークボックスに入っていたエルビスの20曲をアルバムにしたCDです。
「冷たくしないで ハウンドドッグ キングクレオール ラヴァー・ドール GIブルース ベストは尽くしたが サレンダー ロンリーマン ロカ・フラ・ベイビー 心の届かぬラブ・レター あなたは何処から ラスベガス万才 ホワッド・アイ・セイ スイムで行こう ユール・ビー・ゴーン キッスン・カズン 胸に来ちゃった イージー・クエスチョン いかすぜ、この恋」以上の20曲。
エルビスファンならば、知っている曲ばかりですが、片寄っています。まず世界的なヒット曲が少ない。英国でのNo.1ソング18曲を集めた「ELVIS PRESLEY UK#1s Singles Box Set」があります。大滝さんのジュークボックスに入っていたのは『サレンダー』『心の届かぬラブレター』の2曲だけです。
またエルビスの若い頃の曲が少ないのも問題です。エルビスは18歳のとき母への贈り物にするためにレコーディングをし歌手活動を始めます。そして42歳で亡くなるまで活躍を続けます。エルビスの歌手活動で大きな転換期があります。それが1958年〜1960年の軍隊生活です。ロック歌手としてのエルビスの生命は58年(23歳)の入隊で終わったとされています。ひとつは徴兵に素直に応じたロックローラーなんて考えられないから、もうひとつは年齢とともに透明性のないおじさんの声(それでも断然No.1)になっていってしまうからです。大滝ジュークボックスのなかで入隊以前のシングルは『冷たくしないで』『キングクレオール』の2枚だけ。大滝さんは、エルビスのボーカルの本当の魅力を理解していたのか、と疑いたくなります。救いは、ラスヴェガス時代の曲が選ばれていないこと。これは偉い。
3、エルビス生誕80周年
ロックってなんでしょう。私たちはなぜ初期のエルビスに惹かれるのでしょうか。
はじめエルビスは、下品でセクシーすぎる、白人女子を不潔な黒人文化に染める、という理由で米国の良識に否定されます。しかしこの時、米国に「若者文化」が誕生します。ブルージーン、ポニーテールのリボン、ヘアオイル、ミルクシェーク、モーターサイクル、トランジスタラジオ、非行、放浪、反抗。ロックは気持ちがいい。ロックは心の中に入り込んでくる。そしてロックコンサートの会場にいる人々を結びつける。「イエーイ!」のひと言で、ぼくは自分に目覚め、精神的なコミュニティを作る。ロックはアナーキーで、デモクラシー。だれもぼくを強制することはできない(『ぼくはプレスリーが大好き』片岡義男p.152 三一書房)。
米陸軍への入隊で、エルビスは社会の「いい子」に変身し、ロックは終わります。そしてエルビスラスヴェガスで「ディズニーランドのようなエンタテイナー」になっていきます。エルビスが好きなんて、かっこ悪い!
2015年はエルビス生誕80周年(1935年生まれ)。大滝さんが生まれたのは1948年。エルビスが入隊するのは1958年。つまり大滝さんがギターを持つ前にエルビスのロックは死んでいました。エルビスのことで大滝さんに詰め寄るのは残酷。でも、・・・そこんところを大滝さんと話したかった。