「水素社会」の掛け声は大きい。しかし実現までは遠い。

THE TED TIMES 2023-23「水素社会」 6/15 編集長 大沢達男

 

「水素社会」の掛け声は大きい。しかし実現までは遠い。

 

1、水素社会

水素は燃焼しても炭酸ガスを出しません。カーボンフリーです。そして水素は国産が可能、中東に依存する石油とは違います。

では水素はどうやって作るのでしょうか。

1)安価な褐炭(かったん=定品位な石炭)、未使用なガスなどを原料として作ります。化石燃料をベースに作られた水素は「グレー水素」と呼ばれます。

2)水素の製造工程で排出された CO2を埋め立て役立て排出量を削減する手法があります。これを「ブルー水素」と言います。

3)再生可能エネルギーを使い製造工程でCO2を排出しない水素を「クリーン水素」と言います。水を電解して水素を作ります。

しかし電気を使います。カーボンフリーになるためには再生エネ由来の電気で、しかも低価格の電気を使う必要があります。

水素(H)と同じようにアンモニア(NH3)もカーボンフリーです。

アンモニア(NH3)は、「ハーバー・ボッシュ法」により工場で窒素(N2)と水素(H2)を化学反応させ合成して作ります。

そのためには400~600°C、100~200気圧という高温・高圧の環境が必要です。

ただし新しい研究では窒素と水から、常温・常圧で簡単で大量にアンモニアを作る方法が発表され、エネルギー資源のパラダイムシフト起こす可能性があると注目されています。

以上を常識にし、水素社会の学習をします。

 

2、佐々木一成と梶川裕矢

1)佐々木一成

日本政府は2017年に世界に先駆けて「水素基本戦略」を策定しています。

問題なのは水素の価格です。現在の水素の価格は100円/Nm3(1立方メートル)です。

水素燃料電池車が使う水素ステーションで水素販売価格が100円になれば、ハイブリット車と同じ燃費になります。50円になれば軽油を使うトラックと同じ燃費になります。

次に水素発電があります。天然ガス火力発電所では水素に、石炭火力発電所ではアンモニアにとって替わられます。。

水素では、液化、石油系化合物にして運ぶ技術の確立、アンモニアでは工程全般における二酸化炭素排出削減効果を明示するという課題があります。

水素発電には水素価格が15~30円になることが必要です。

さらに化学工業では18円、製鉄では8円という高いハードルがあります。

水素価格が下がらなけば、水素は普及しません、インフラも整備されません。結果的に水素価格は高止まりのままで終わります。

そのためには公的介入が必要です。水素・アンモニア企業を評価支援する仕組みが必要になります。水素社会は民間任せ技術革新のみでは実現しません(以上は「価格重視の技術開発を」 佐々木一成九州大学副学長 日経5/30)。

2)梶川裕矢

第1に、水素社会の実現には、システム全体の戦略的展開が必要です。

要素技術やデバイスの研究ではダメです。たとえば燃料電池を用いた水素利用の研究は頭打ちです。水素還元製鉄、水素発電は実現していません。

第2に、既存レジーム(体制)の活用ではなく新たなレジームへの移行させる必要があります。

たとえば石炭火力発電装置に水素やアンモニア燃焼用の噴霧器を取り付ける混焼技術などは埋没資産になる可能性があります。つまり移行後を見据えた投資を重視すべきです。

世界では水素社会ではなく「水素経済」という用語が多く用いられています。スケールメリットでコストを削減する、さらにはスコープメリット(範囲の経済)でさらなるコスト低減が期待できます。

そしてシステム全体の構想力と戦略策定力が問われる時代になってきています(以上は「勝ち残りかけた正念場に」 梶川裕矢 東京大学教授 日経5/31) 。

 

3、アンモニア

国内火力発電最大手のJERAは、年に200万トン規模のアンモニアを輸入します。混焼です。火力発電所で石炭にアンモニアを混ぜて燃焼させます。

混焼は、石炭火力の温存につながる、石炭火力は全廃すべきだとの批判がありますが、JERAは混焼は移行措置で、30年まで石炭火力は全廃、 50年からはアンモニアだけを燃やす「専燃」を目指すとしています(日経 5/1)。

アンモニア利用に向けた主な動きは以下の通りです。

JERA・・・23年度に20%の混焼実証。九州電力・・・4月から少量混焼実験。

三菱商事三井物産・・・米国などで製造事業への参画拡大を検討。

日本郵船商船三井・・・JERAと輸送船など開発。

電力5社とJERA・・・配達網の共同整備検討。

三菱重工IHI・・・専燃化への技術を開発。

JERAなど・・・タイ発電事業者などへ技術の輸出を検討(日経 5/1)。

 

政府の第6時エネルギー基本計画によれば、2030年での水素・アンモニアは、全エネルギーのなかで占める割合はわずか1%です。

1)再生可能エネルギー=22~3%(太陽光、風力、地熱、水力、バイオマス)、2)原子力=9~10%、3)化石エネルギー(天然ガス=18%、石油=31%、LPガス、石炭=19%)、4)水素・アンモニア=1%、5)地熱と並べられています。

水素・アンモニアへの期待はよくわかりましたが、実現には遠い道のりがあります。