クリエーティブ・ビジネス塾27「アレンvsポランスキー」(2018.7.2)塾長・大沢達男
W・アレン(82) vs R・ポランスキー(85)。
映画『男と女の観覧車』(W・アレン、以下「観覧車」と略す)と映画『告白小説、その結末』(R・ポランスキー、以下「告白小説」と略す)の2作が東京で同時期に上映されています。W・アレン(82歳)、R・ポランスキー(85歳)、両監督の活躍は、高齢化社会のお手本です。さて、どちらの監督が勝っているでしょうか。映画芸術に勝ち負けなどありませんが。下衆の興味はやはり勝負です。
1、ストーリー
「観覧車」は、恋物語です。ニューヨーク近郊のコニーアイランド遊園地の食堂で働く主人公のジニーは再婚の夫と暮らしています。ある日、海水浴場の若い監視員に恋をし、デートを重ねます。そこに夫の娘が父を訪ねてやってきます。娘はギャングと結婚し別れていましたが、ギャングの手下に追われる身でした。そして娘は、こともあろうに、ジニーが付き合っている若い監視員を、そんなこととも知らずに、好きになってしまいます。三角関係。しかしその果ては、誰にもわかっています。若いピチピチした女と、パツイチ女・・・。
「告白小説」は、心理サスペンスドラマです。
私小説の出版で成功した小説家デルフィーヌの物語です。ベストセラー作家のサイン会場に美しい女性ファン「エル」(彼女)が現れます。エルは初対面にも関わらずすぐに小説家と仲良しなります。スランプの小説家にアドバイスを与え気に入られ、秘書の様な役割を果たすようになり、小説家と同居するようになります。しかし「エル」はくせ者でした。小説家のパソコンを使い、小説家の友人に偽メールを送るようになります。そして小説家が不注意で足を骨折すると、別荘に連れ込み、殺害を計画します。
×W・アレン vs ○R・ポランスキー
ストーリーで、R・ポランスキーの勝ちです。「観覧車」はW・アレンの創作、「告白小説」は現代のヒット小説が原作。酒と観覧車の映画と、薬物とパソコンの映画、リアリティが違いすぎます。
2、キャリア
W・アレン(1935.12.1~)は、米国の映画監督、俳優、脚本家、小説家、クラリネット奏者です。アカデミー賞に史上最多24回ノミネートされています。『アニー・ホール』(1977年)で、脚本賞と監督賞を受けています。ユダヤ人です。監督、脚本、主演の三役をこなして成功することができたのは、北野武、チャールス・チャップリン、オーソン・ウェルズ、そしてウディ・アレンの4人だけだといわれています。
R・ポランスキー(1933.8.18~)は、ポーランド出身ですが、ポーランドとフランスの二重国籍を持っています。『戦場のピアニスト』(2002年)でアカデミー賞監督賞、カンヌ国際映画祭パルム・ドール賞、『袋小路』(1966年)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞、ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞。デビューは『水の中のナイフ』(1962年)です。
×W・アレン vs ○R・ポランスキー
共に超一流の戦績を誇っていますが、R・ポランスキーの国際映画祭での存在感は格が違います。
3、シネマトグラフィー
「観覧車」では1950年代のコニーアイランドが再現されています。
1)何の違和感もなく、50年代に連れて行ってくれる撮影技術と特撮技術は素晴らしい。ドラマも完璧です。再婚相手の夫には問題児の連れ子がいます。それが問題児です。いいプロットです。若い監視員もいい。ギャングに追われている若い娘もいい。そして妙齢の主人公ジニーの夢と現実もいい。
2)ドラマの筋立てはすべてOK!ジグソーパズルのピースはすべて収まるべき所に収まっています。
3)さらに音楽もいい。50年代のベストヒットが流れてきます。もちろん50年代のファンションも趣味がいい。破綻がない。完璧なアメリカ映画。それ故に新しい映画の発明はありません。
「告白小説」の主人公は小説家です。
1)何をどう書くか。なぜ書くか。なぜ書けないか。何のため生きるのか。実存的な問いがあります。
2)そしてサスペンスです。生きるか死ぬか。見るものは絶えず生存の危機にされされます。観念で映画を見ることは許されません。生存本能が呼びされ、本能が総動員されます。巧みな映像のモンタージュにより、観客は生き残るために、なにをしなければならないか、決断を求められます。
3)映像がシャープ。キャメラがいい。オープニングがいい。エンディングがいい。
×W・アレン vs ○R・ポランスキー
ふたりともいい映画を作りました。ただどちらが映画を発明しているか、となるとR・ポランスキーです。
80歳代のふたりの映画人に乾杯!生涯現役、生涯新人です。