タックスヘイブンで、マネーは音楽より自由に、国境を越える。

クリエーティブ・ビジネス塾19「タックスヘイブン」(2016.4.25)塾長・大沢達男

タックスヘイブンで、マネーは音楽より自由に、国境を越える」

1、パナマ文書
何者かにより、絶対に漏れてはならない個人の資産に関わる秘密情報が、リーク(leak=情報が漏れること)され、世界中の政治家、企業家、スーパースターが恐れおののいています。
パナマ文書(Panama Papers)」です。パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の大量の機密文書(1150万件、2.6テラバイト)がドイツの新聞社を経由して、ICIJ(国際調査情報ジャーナリスト連合に持ち込まれました。モサック・フォンセカタックスヘイブン(Tax Haven=租税回避地)を利用する個人や企業のための仕事をし、機密保持を最大使命にしています。その機密が40年分も漏れてしまったのです。
誰の名前が出てきたか。
まず政治家。プーチン・ロシア大統領、習近平・中国国家主席、キャメロン・英首相、グンロイグソン・アイスランド大統領、そしてスター。サッカーのメッシ、映画のジャッキー・チェンです。
企業だけでなく、政治家、世界のセレブリティは、税率がゼロか極端に低いタックスヘイブン租税回避地。企業はオフショア企業と呼ばれる)を使って蓄財や金融取引をしていた実態が明らかになりました。
2、タックスヘイブン
タックスヘイブン(haven=港、避難所)は、パナマ、英領バージン諸島、ケイマン諸島バハマ、つぎにモナコリヒテンシュタインのヨーロッパの小国、そして香港、シンガポールの税率の低い先進国・地域で、英領の旧植民地が目立つのが特徴です。
そもそもタックスヘイブンは戦争で生まれました。19世紀から20世紀前半の戦争で国家財政が傷ついたヨーロッパの各国は税率を上げました。その結果、高い税率を嫌がる富裕層を助けるビジネスが生まれたのが、発端です。一方で、有力な産業のない国にとって、低税率は海外資本を呼び寄せる武器になりました。大企業や富裕層はタックスヘイブンに会社を設けたりお金を預けたりして、居住地の高い税金を逃れることができました(日経4/14)。徹底した秘密主義も特徴です。タックスヘイブンに開いた銀行口座や設けた会社の情報は厳格な法律で厳しく守られます。
もちろん合法的な理由もあります。たとえば、企業2社が国境をまたぐ合弁会社を設立しようとするときには、中立的な場所を選びます。あるいは政治や経済が不安定な市民が貯蓄を預けるのに安全な場所を探すことがあるでしょう(The Economist 日経4/12)。
しかしパナマ文書には、正体不明のパーパーカンパニーがからんでいました。これが脱税、マネーロンダリング資金洗浄)、賄賂、さらにはテロリストへの資金援助の隠れみのになっていました。
3、シンガポール
日本は関係ねー。惰眠を貪っていたら目を覚まされました。『タックスヘイブン』(橘玲 幻冬社文庫)です。
日本企業、政治家、ヤクザの舞台は、シンガポール・香港でした。しかもこの小説は「過去数年に読んだインテリジェンス小説で一番面白い」(作家・元外務省主任分析官 佐藤優)、というプロのお墨付きです。
シンガポールはほんとうは貧しい国なの><電気もガスも自力では供給できない。製造業は・・・移ってしまった・・・タックスヘイブンとして金融業で生きていくしかない>(前掲p.159)。
なるほど。シンガポールの快進撃がわかります。なぜ彼らが英語を話し、MBAを取得するのか。ちなみにシンガポール法人税は実質10パーセント未満。日本では法人税、事業税、住民税で40%近くになります。しかも、キャピタルゲイン税(株や不動産の値上がり分)、住民税、贈与税相続税がありません。日本からのタックスヘイブンとしては最良です。
つぎにシンガポールはヨーロッパの小国やジャマイカ諸島の先進のタックスヘイブンへの追撃者でした。追いつけ追い越せでなんでもやり、だれでも顧客にしました。<まともな銀行が相手にしない客で稼ぐしかないんです。仕手相場師、政治家、風俗やパチスロのオーナー、街金、ヤクザ・・・>(前掲p.421)。
これで小説の舞台は整います。シンガポールに群がる政治家、企業家、ヤクザ、有名スポーツ選手、芸能人、スパイ・・・日本の悪(ワル)。日本の経済と政治の危機、戦後賠償、リーマンショック東日本大震災原発北朝鮮、すべての大問題がからんできます。
事実は小説より奇なり。パナマ文書にも日本人の名前が出始めました。シンガポール・香港の情報がリークされるようになったら、日本の本当のドラマが始まります。