○「大和魂です。バラマキ合戦に意見を述べさせていただきます」財務事務次官 矢野康治 (『文藝春秋』2021.11)。

TED TIMES 2021-40「矢野康治」 10/9 編集長 大沢達男

  

○「大和魂です。バラマキ合戦に意見を述べさせていただきます」財務事務次官 矢野康治 (『文藝春秋』2021.11)。

 

数十兆円の大規模経済対策、財政収支黒字化の凍結、さらには消費税率の引き下げ、まるで国庫には無尽蔵に金があるかのような・・・バラマキ合戦の政策論を聞いていて、もう黙っているわけにはいきません。

すでに国の長期債務は973兆円、地方債務と合わせると1166兆円、GDPの2.2倍、先進国でずば抜けて大きな借金を抱えています。日本は沈没します。私は一介の役人ですが、国庫の管理を任された立場のものとして、言うべきことを言わせていただきます。

1、国民はバラマキを求めていません。

わが国の財政赤字(一般政府債務残高/GDP)256.2パーセントで(ドイツ68.9、英国103.7、米国127.1)は、どの先進国よりも劣悪です。財政再建は後回しにされてきました。

経済政策には財源が必要です。コロナ対策で英国は法人税率の引き上げ、米国では法人税率の引き上げと富裕層への課税強化、フランスでは歳出増を歳入増より抑えています。財源のあてもなく公助を膨らませているのは日本だけです。

日本では、家庭は貯蓄、企業は内部留保で、かつてない”金余り”状態です。いま必要なのは、「金を寄越せ、ばらまけ!」ではなく、病床確保、ワクチン接種、治療薬の提供です。巨額の財政支出ではなく、民主導でやるものばかりです。

2、GDPを増やしても赤字が減らないのには訳があります。

金利で「借り得」の時代だから、財政出動GDPを増やせば、財政健全化ができるという説は間違いです。金利は低くても「国債残高/GDP」の元本が増え続けるので、財政は際限なく悪化します。経済理論の話ではありません。算術計算の話です。財政健全化には、単年度収支の赤字幅を縮めることです。赤字を放置してはなりません。世界に誤解を招くメッセージを送り、国を危うくします。

3、消費税引き下げは疑問です。

増え続ける高齢世代の社会保障費をどうするか、長い議論の末の「切り札」が、消費税です。消費税の役割はますます重要になっています。引き下げは少子高齢化に逆行するものです。消費税を一時的に下げた欧州の例は参考になりません。下げたものをいつ上げ戻すのか、難しい問題もあります。

財務省はいままで、危険な「バラマキ合戦」に警告を発せずに、助長してきました。「心あるモノ言う犬」として率直な意見を述べさせていただきました。

 

○岸田首相所信表明演説(10/8)

 

1、はじめに

新型コロナで大きな影響を受ける方々を支援する速やかな経済対策を策定します。

その上で、私が目指すのは、新しい資本主義の実現です。

国民の信頼と共感の上に、多様性が尊重される社会を目指します。

2、新型コロナ対応

すべてに2回目のワクチン接種をさらに3回目のワクチン接種を行えるような準備を、さらに経口治療薬の年内実用化を目指します。

経済支援を行います。事業者には地域、業種を限定しない給付金を、また新型コロナの影響に苦しんでいる非正規、子育て世帯などお困りの方々に給付金の支援を行います。

3、新しい資本主義

目指すのは新しい資本主義です。

世界では、民主主義の中核である中間層を守り、地球規模の危機に備え、企業と政府が投資する、新しい時代の資本主義の模索が始まっています。

「成長と分配」、「コロナ後の新しい社会開拓」が、コンセプトです。「成長も、分配も」。デジタル化の科学技術でコロナとの共生を前提にした新しい社会です。

「新しい資本主義実現会議」を創設し、ビジョンの具体化を進めます。新しい資本主義の両輪は、成長戦略と分配戦略です。

成長戦略の第1の柱は、科学技術立国の実現です。先端科学技術の研究開発に大胆な投資、2050年カーボンニュートラルの実現を目指します。

第2の柱は、「デジタル田園都市国家構想」です。地方と都市の差を縮め、全てがデジタル化のメリットを享受できるようにします。

第3の柱は、経済安全保障です。

第4の柱は、人生100年時代の不安解消です。全世代型社会保障の構築をします。

分配戦略の第1の柱は、働く人への分配機能の強化です。株主、従業員、取引先の「三方良し」です。賃上げの企業へ税制支援を行います。

第2の柱は、中間層の拡大、少子化対策です。教育費、住居費への支援を行います。

第3の柱は、看護、介護、保育など人々の収入を増やすことです。公的価格を見直します。

第4の柱は、公的分配を担う、財政の単年度主義の弊害是正です。地方活性化に積極的に取り組みます。復興なくして再生なしです。米価の大幅な下落は深刻な課題です。2025年大阪・関西万博もあります。観光立国、文化立国にも取り組みます。

4、国民を守り抜く、外交・安全保障

3つ目の重点施策は、「国民を守り抜く、外交・安全保障」です。

第1に、自由、民主主義、人権、法の支配、普遍的価値を守り抜く覚悟です。「自由で開かれたインド太平洋」です。

第2に、我が国の平和と安全を守り抜く覚悟です。日米同盟をさらなる高みへ、普天間飛行場の全面返還、辺野古沖への移転工事を進めます。拉致問題は最重要課題です。

第3に、地球規模の課題に向き合い、人類に貢献し、国際社会を主導します。「核兵器のない世界」に全力を、自由貿易の旗手を目指します。

5、新しい経済政策

「新型コロナ対応」、「新しい資本主義」、「外交・安全保障」が3つの政策です。

新しい資本主義への経済対策を指示ました。

6、おわりに

憲法改正への議論が深まることを期待します。

日本という国が、先祖代々、営々と受け継いできた、人と人のつながりが生み出す、やさしさ、ぬくもりがもたらす社会の底力、これが「国のかたち」の原点です。

「早く行きたければ一人で進め、遠くまで行きたければ、みんなで進め」。

私は日本の底力を信じます。

 

○10/31の衆議院議員の選挙結果

自民党は解散前から-15で261、立憲民主党は-14で96、日本維新は+30で41。与党は293、野党は162。自公連立政権の勝利に終わりました。

野党のバラマキは敗北しました。なぜ自民は勝利したか、若者層の勝利によるものです。財源なき大判振舞い委の給付は、若者の未来を質入れするものだからです。

議席を4倍に増やした日本維新の会の主張は「分配の原資は成長と改革」でした。「成長と分配」だけでなく、原資の捻出先を明らかにしたものでした(日経6/10)。

選挙結果は、政党ではなく、矢野論文の勝利でした。

 

○「矢野論文」大論争!

「国の借金はまだまだできる」(浜田宏一イェール大学名誉教授 『文藝春秋』 2021.12)

第一に、「日本は世界最悪の財政赤字国である」という認識は事実ではありません。

年収に比べて借金がどれだけあるか、では借金の重さは捉えられません。金融資産、実物資産で借金は減る。IMFは実物資産を考慮して各国政府の金持ち状況を試算しています。それのよれば、日本はわずかな純債務国で、大債務国のポルトガル、英国、オーストラリア、米国よりも債務は少ない。

第二の誤りは、「国家財政も家計と同じだ」という考え方です。

この考え方のルーツはリカード「政府の財政バランスは長期的に均衡する必要がある。そうしないと子孫は困ることになる」。ところがこの前段ばかり伝わり後段の「人はそこまで賢くはない」が伝えられていません。リカードの説は現代では通用しません。

「自国通貨を発行している政府は破産しない。政府は必要に応じて貨幣を発行すれば、債務超過は解消できる」。MMT(現代貨幣理論)です。国に借金がGDPの1000%になっても大丈夫です。

第三の誤りは、「帳尻合わせ最優先で国民福祉は後回し」の発想です。いまは財布の紐を絞るときの矢野さんは間違っています。人が生死の境に落ち込みかねない今こそ有事です。国家が目指すべきは財布の帳尻は合ってなくても、豊かな人材がスタンバイしている20年後です。

 

○結論。

選挙での自民党の善戦の理由は、まず「新しい時代を皆さんとともに」というキャッチコピー、そしてそのとなりある岸田総理の上品な顔の傑作写真でした。

今の若い人たちは対決や論争と好みません。優しさや礼儀正しさをを求めます。大学院に進学しない、留学しない、海外雄飛を求めない、内向き。決していいことではありませんが、これが今の若い日本人です。

新しい時代とは「新しい資本主義」を意味しますが。それより「マンネリじゃない、今と違う」という意味でしかありません。抽象的で何の政策もありませんが、若い人はそれを選びました。つぎに皆さんとともには「分配」を意味しますが、それより若い人たちには「あなたを無視しません」と届きました。

岸田文雄首相の表情も上品です。若い人たちは我が子もこんな上品な顔に育ってほしいと願っていました。

「新しい時代を皆さんとともに」を語る岸田総理の笑顔は、我が子もこんなふうに上品にというもので、間違いなく若い選挙民に届き、心を掴みました。立憲は明らかに負けていました。維新の吉村大阪市長のポスターは、自民のポスターと対極的な意味で評価できます。

浜田宏一名誉教授はアベノミクスでも影の主役です。矢野論文の反論にはなるほどというほかはありません。アベノミクスには数々の批判がありますが、だれが浜田教授と論争したでしょうか。聞いたことがありません。

 

以上。2021.11.10 加筆