なぜソウル・ミュージックに惹かれる。それは私にも心の闇があるからです。

TED TIMES 2021-41「summer of soul」 10/16 編集長 大沢達男

  

なぜソウル・ミュージックに惹かれる。それは私にも心の闇があるからです。

 

1、アポロ

「月に、人間が降り立ったが、どう思う?」(注:1969年7月アポロ11号の話です)

ハーレムの音楽祭に集まっている黒人が、質問されます。

たいていは、関心がない。そして、そんな金があるのなら黒人の生活をもっとまともなものにするために使って欲しい、と答えます。

ハーレムの音楽祭で、米国政府の宇宙開発の政策批判が、主張されます。

音楽祭とは「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」。1969年夏、ニューヨーク・ハーレムで6週にわたり開かれ、30万人を集めた、ブラック版のウッドストックと呼ばれたイベントです。

月に向かったのは、アポロ11号のニール・アームストロングマイケル・コリンズ、バズ・オルドリンです。宇宙開発の白人と格差社会の黒人。その対比と告発は、いかにも正当のようですが、間違っています。

宇宙開発がなければ、現在のテレビとスマホはあり得ません。アメリカはデジタル後進国になっていたでしょう。それどころか「Black lives matter.」が、メッセージとして広く世の中に伝わることすらあり得なかったでしょう。

日本でも同じ頃に似たような正義の主張がなされ、今でも東京都民はその代償を支払わされています。

美濃部東京都知事(在任期間1967年~79年)が主張した、高速道路はいらない都民を大気汚染から守る、の正義です。

おかげで首都高4号線の高井戸料金所は作られず、第3京浜は環状8号線で行き止まりの欠陥道路となり、都民はいまだに渋滞と大気汚染に悩まされています。

若い頃、マルキストの美濃部知事を支持し、熱狂した自分を恥じています。

おっといけネェ、こんなことを議論するために、ドキュメンタリー・フィルム映画『サマー・オブ・ソウル』を見たわけではありませんが、ともかくこの正義の主張は気になりました。

 

2、「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」

ハーレムの音楽祭が開かれた同じ頃、相模原の座間基地の近くの246号線沿いに、「シルバー・スワン」というディスコがありました。

東京赤坂に「ムゲン」、六本木に「メビウス」があった頃です。

数あるディスコのなかでも「シルバー・スワン」は、ナンバーワンでした。

最新(おしゃれなダンス・ナンバー)で最深(ディープなゴスペル)のソウル・ミュージックが流れていました。

「シルバー・スワン」は日本のお坊ちゃんお嬢ちゃんの遊び場ではなく、米国黒人の軍人によって最新のレコードが持ち込まれる黒人専用のディスコでした。

大音響の真っ暗闇には、激しく踊っている若者だけでなく、ひとりで座って黙って考え込んでいる、黒人がいました。

ベトナムに出撃して二度と戻ってくることができない黒人たちが、文字通りの「ラストナイト(最後の夜)」を過ごしていました。

そこに、暴走族と暴走族まがいの、アポロキャップをかぶった、日本の若者(バカモノ)が紛れこんでいました。それが私たちでした。

私たちは、イカれて、グレて、ヨタって、ソウル・ミュージックに惹かれていました。ロックやジャズでは、当たり前すぎる・・・。

そして私たちは、「シルバー・スワン」で初めてホントのソウル・ミュージックに触れ、耳を鍛えられることになります。

「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」が開かれて、映画『Summer of Soul』になった時代は、私たちの「シルバー・スワン」の時代です。

 

 

1)テンプテーションズ

あの頃のディスコでは、「ゲット・レディ」(1969年 レア・アース)が、圧倒的な人気がありました。ダンスの振り付けがあり、みんなで並んで踊っていました。

アーアーアーアーアー、ゲットレディ 、ゲットレディ

とうとう最後まで、一人で踊ることができなかった、ほんとに、イカれて、グレて、ヨタれない、私がいました。

実は「ゲット・レディ」(1966年)は、エディ・ケンドリックスが歌ったテンプテーションズの曲です。

でもヒットしたのは、デトロイトの白人グループ、レア・アース版でした。

レア・アースのドラマー、ピート・リヴェラの野太い、欲望丸出しのヴォーカルは、洗練されたエディ・ケンドリックスの歌に、完全に勝っていました。

とはいえ、テンプテーションズは、当時のソウル・ミュージックのチャンピオンでした。

マイガール」(オレのスケ)がサイコーでした。ダンスがかっこいい、スーツがかっこいい。

映画『Summer of Soul』では、デヴィッド・ラフィンが「マイ・ガール」(1964年)を一人で歌っています。

デヴィッドは、ハイ・トーンのファルセットを聴かせますが、やはりエディ・ケンドリックス同様、線が細い。

人気のテンプテーションズは、おしゃれなショウ・ビジネスのボーカル・グループだった、ことがわかります。

 

2)グラディスナイト・アンド・ピップス

「シルバー・スワン」で聞いたグループで覚えているのは、「スキン・タイト」(1974年)と「ファイアー」(1974年)のオハイオ・プレイヤーズ、そして「ファンキー・スタッフ」(1973年)と「ジャングル・ブギー」(1974年)のクール&ザ・ギャングです。

シュープリームズ」は、ダイアナ・ロスが、キレイすぎて、白人のスケみたいで、嫌われていました。

グラディスナイト・アンド・ピップスは「夜汽車よジョージアへ」(1973年)をヒットさせていました。聞き返してみるとこのグラディスのボーカルはいい、泣いています。

映画『Summer of Soul』での、グラディスのボーカルもいい。見所はザ・ピップスのダンス、カッコイイです。

 

3)ステイプル・シンガーズ

「シルバー・スワン」経験以後、私は熱心なソウル・ミュージックのファンになります。

女性ボーカルでは、ミリー・ジャクソン、ロリータ・ハロウェイ、キャンディ・ステイトン、ベティ・スワン。

男性ボーカルでは、オーティス・レディングを筆頭に、オーティス・クレイ、シル・ジョンソン、ウイルソン・ピケット、マーヴィン・ゲイ

グループでは、スモーキーロビンソン&ミラクルズ、ムーングロウズ、フラミンゴス、そして断然、ステイプル・シンガーズがお気に入りになります。

ステイプルズの映像を見るには、この映画が初めてです。

そしてステイプルズの「Respect Yourself」(1972年)という曲を思い出しました。コーラスのグルーブ感、それに重なるリードボーカルのシャウトそして”respect yourself”のリフレイン。

「自分を大切に」。歌詞は難しすぎてわかりません。テンプテーションズの「オレのスケ(my girl)」とか「スケと別れてから」(since I lost my baby 1965年)の単純さがありません。

ゴスベル、教会の説教音楽だからです。でも「自分を大切に」それだけは、わかります。

『Summer of Soul』のなかでも、歌うのは「Help me Jesus」(主よ助け給え)、よくわかんないけどステイプルズが好きです。

イカれて、グレて、ヨタって、ソウル・ミュージックの世界に迷い込んだのだから、それでいいのです。

 

3、Black

映画『Summer of Soul』には、アポロの月と黒人に似たもうひとつ気になるプロットがあります。

「NEGRO」が「BLACK」に書き換えられるシーンです。

「NEGRO」は、ポルトガル語で黒という意味で、貿易上の取引”物件”という意味で使った、差別用語です。

ニューヨークタイムズ差別用語「二グロ」の変わって「ブラック」を使うようになります。細かい経緯が映画でも描かれているようですが、よく覚えていません。

映画のエンディング近くで、クドイほど看板の「NEGRO」が「BLACK」に書き換えられシーンが出てきます。

映画『Summer of Soul』の監督アミール・クエストラブ・トンプソンの激しいメッセージです。

そして映画は終わります。

 

驚きました。吉祥寺の「オデオン座」の昼間の回にもかかわらずほぼ満員の観客が、拍手をし始めたからです。

それは映画に出演したアーティストへというより、監督のクエストラブの主張に向けられたものでした。

「オイオイ!」と私は複雑な気持ちになりました。

米軍はアフガニスタンから撤退したばかりです。米国人はかつての黒人と同じようにイスラム教徒を差別しています。

独立宣言にある「全ての人間は平等に造られている」というはインチキです。白人のキリスト教徒だけに限った話です。

黒人への差別、いまはイスラム教徒への差別、そしてかつて大東亜戦争の頃の日本人への差別、白人帝国主義キリスト教徒の差別思想はいまだに変わっていません。

なぜアルカイダが「9・11事件」を起こしたか。答えられる人がいるでしょうか。

キリスト教徒のアメリカ軍が、イスラム教徒の聖地であるサウジアラビアのメッカとメディナに進駐し、じゅうりん(蹂躙=踏みにじる)したからです。

それに、ビン・ラディンは抗議しました。なぜこのことをメディアは報道しないのでしょうか。

エストラブ監督の「Black is matter」の主張に無条件に拍手するわけにはいきません。

白人帝国主義は、天皇がいる未開国・日本に原子爆弾を投下し、二度と米国に反攻できないような憲法を与え、アニミズムのような神道を信ずる日本人に平和と民主主義を与えました。

人権主義やリベラリズムに拍手する前に、洗脳され骨抜きにされ、反攻できず滅びていく日本民族は、そろそろ立ち上がるべきです。

 

じゃ、なんで黒人でもないお前が、ソウル・ミュージックに肩入れするんだ。

それは聞くだけ野暮・・・。

イカれて、グレて、ヨタって、ソウル・ミュージックを聞いていた、と言ったじゃありませんか。

だれにも、人に言うことができない、心の闇はある、だから「シルバー・スワン」に出入りしていたのです。会社に勤めているのに、アポロキャップなんかかぶっちゃってさ・・・。

オーティス・レディングの「Satisfaction」(モンタレー・ポップ・フェスティバル 1967年)を聞くたびに・・・涙ボロボロ・・・黒人の歌に共鳴できる、心の闇が、私にもあります。

I can’t get no satisfaction  どうにもならネェ やってられネェ マジになっても 気合い入れても どうにもならネェ やってられネェ 

I can’t get no satisfaction  ナンバする こともできネェ  マジになっても 気合い入れても どうにもならネェ やってられネェ 

END