世界クラスの映画監督の登場。ユホ・クオスマネン(フィランド)です。

THE TED TIMES 2023-09「コンパートメント No6」 3/1 編集長 大沢達男

 

世界クラスの映画監督の登場。ユホ・クオスマネン(フィランド)です。

 

1、フィンランド

ラウラ「いつもひとりで旅をしていて、淋しくはならないの?」

フィンランド人の旅人「・・・生きていくことは孤独だ!」

フムフム・・・、いい感じの映画だな、と私は思い始めます。この会話は、列車に乗ったが席のない旅人に映画の主人公ラウラが自らの座席に招き入れたときの、やりとりです。

ラウラは、見知らぬロシア人リョーハと、コンパートメント No6(ソファとベッドのある個室)に乗車していました。

フィンランド人は感じの良いハンサム、ギターを抱えて旅をしているボヘミアン、もちろんコンパートメントのなかでもギターを出し歌ってくれます。

ラウラと相部屋のロシア人リョーハはその正反対です。リョーハはタバコを吸い、酒を飲む肉体労働者。ラウラはあまりにも礼儀知らずな口のききかたに腹を立て、席を変えてくれと、車掌になきつくほどでした。

ダメなロシア人、感じ良いフィンランドボヘミアンの対比で映画は進む・・・、

と思うと監督は裏切ります。

ボヘミアンは途中で下車、そのときラウラの大切なヴィデオ・カメラを、持ち去ります。

窃盗犯!私たちの憧れの愛と自由のボヘミアンフィンランド人を監督は葬(ほうむ)りさせます。

2、ロシア人

映画はモスクワから北の最果ての地、ムルマンスクまでの列車での旅の話です。

ラウラと同室のロシア人のほかに、印象深いロシア人が登場します。

ひとりはリョーハとラウラが列車から降り、一泊お世話になる、おばあさんです。リョーハがベッドに行ったのち、ラウラとおばあさん、女二人が話し込みます。

おばあさんが大胆なことを言います。

「内なる自分を持っている、女性はとても賢い、心の声を信じて生きるの」

おばあちゃんは、つまり女は偉大、男にはないものがある、と言います。

歴史人口学者のエマニュエル・トッドは、ロシアは「共同体家族」では女性の地位が高いと分析します。それは英米の「核家族」とは違うものです。

あとふたりのロシア人とは、列車の車掌と食堂車のサーバーです。

車掌は、ラウラの座席の変更申し込みを、断ります。賄賂も受け取らず、頑固に座席変更を拒否します。

対して食堂車のサーバーは、うまい酒を出せのリョーハの要望に、金を受け取るや否や応えます。リョーハとラウラは美味いウォッカ(?)にありつきます。

3、ユホ・クオスマネン監督

映画を見た動機はフランス文学の中条省平教授が日経紙上で、この映画を早くも今年の収穫と評価し、さらに映画好きの友人が「OK!」のゴーサインを出したからです。

私は手持ちカメラ撮影技術に、まるでゴダールの『勝手にしやがれ』みたいだと、感動しました。そして編集のうまさに、映画の途中で何度か、オッ、オッ!と、うなずきました。クオスネマン監督は映画を発明しています。

列車内の撮影を回顧し、「地獄のように遅く、狭い空間で酸素もなく、匂いが酷かった」、と愚痴っていますが、努力は報いられました。

ラウラは、モスクワのリベラルなインテリ女性との同性愛を精算し、力強く粗野なロシア男性を愛するようになります。

リベラルな同性愛のインテリ女性が、ロシアの共同体家族のおばあさんのよって否定されます。さらにリベラルな(NATO的)な愛と自由のフィンランド人男性も、肉体信仰のロシア人男性によって否定されます。

クオスマネン監督は、フィンランド人 vs ロシア人、言い換えるとリベラル・NATO vs プーチン・ロシアで、プーチン・ロシアに軍配を上げています。

中条先生そして映画を薦めてくれた友よ、変な感想で申し訳ありません。でもユホ・クオスマネン監督にはみなさんと同じように期待します。