民主活動家から、そして「中南海」から、香港をめぐる二つの視点。

THE TED TIMES 2023-26「香港警察東京分室」 7/12 編集長 大沢達男

 

民主活動家から、そして「中南海」から、香港をめぐる二つの視点。

 

1、賞金つきの「民主活動家」

まるで逃亡するガン・ファイターに賞金を懸ける西部劇です。香港当局が海外に逃れた民主活動家に多額の懸賞金をかけて逮捕に乗り出しています。一人あたり100万香港ドル(約1800万円)、ハンパな額じゃありません。

しかも探しているのは、殺人犯ではなく、「民主活動家」です。香港行政トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は、「遠く地の果てまで逃げても必ず逮捕する。逃亡する人生を終わらせるには自首しかない」、「親族や友人でも賞金は受け取れる」として、情報提供を呼びかけています(日経 7/11)。

2、「海外派出所」

別の情報もあります。

中国は通称「海外派出所」を設け、反体制派中国人を監視、恫喝し、中国に帰国させています。

海外派出所は、日本を含めて世界53か国に100箇所以上をあります。でも、これは氷山の一角(「中国『秘密警察』日本での非合法活動」 『文藝春秋』 2023.7 安田峰俊)。

海外派出所は、中国国内の運転免許の更新サポートを行う、反体制的な在日中国人の情報を本国に密告する、国家のエンテリジェンス(諜報)活動をする、などの目的のもとに設置されています。

海外派出所の特徴に、未経験の一般人がある日突然当局の協力者に変貌して、活動することがあげられます。だれもが国家権力の協力者になる、恐ろしい話です。

もちろん、海外派出所は違法です。大使館などの在外公館以外の場所に自国の拠点を勝手に設置する行為は、中国も加盟する「外交関係に関するウィーン条約」第12条に違反しています。

ルポライター安田峰俊は「(海外派出所について)世界で最も詳しく報じる記事」と自信をもって筆を進めてくれていますが、「海外派出所」はわからない組織です。

3、『香港警察東京分室』(月村了衛 小学館

以上は事実に基づいた報道、日本経済新聞文藝春秋、からです。

ここからはフィクション。『香港警察東京分室』という小説のなかに書いてあることです。

「香港警察東京分室」とは仮の名で、正式には「警視庁組織犯罪対策部国際犯罪対策課特殊共助係」です。

警視庁5名、香港警察5名の警察官から構成され、活動拠点は警視庁ではなく、神田神保町オフィスビル4階にあります。

活動の主目的は、香港の民主派教授を逮捕し、香港に送還することです。

手配の教授とは、九龍塘城市大学のキャサリン・ユー教授。教授は2021年、大衆を扇動して422デモを実行させ多数の死者が出たあと、香港から逃亡。その際に協力者であった助手を殺害、大学は解雇されています。

ユー教授の逃亡先が日本で、小説はユー元教授の捜索と逮捕をめぐってストーリーが展開されます。

422デモの構造は複雑です。扇動は、ユー元教授だったのか、それとも権力側のスパイ仕業だったのか。いずれにしても「東京分室」の香港メンバーの一人は、デモで友人の警察官を失っています。民主活動派を許せません。

この小説は「警察官の物語」です。警察官とは「司法」警察官、権力の一部で、香港当局の思惑通り、中国政府の狙い通りに活動しています。

中南海」という聞き慣れない言葉が出てきます。中国政府や中国共産党の建物が群がる北京市西城区の地区名で、中国国家権力の最中枢を意味します。

「香港警察東京分室」が成果を挙げれば、「中南海」は必ず評価してくれる、だからみんな頑張っています。

「我々は警察官だ。泣くのは我々の任務ではない。我々の任務は泣いている人のために働くことなのだ」。

香港警察の隊長が部下を激励する言葉が涙を誘います。

***

現実の暴挙に怒りを持って共感するか。フィクションの友情や仁義に共感するか。微妙です。