プーチンはリベラリズム帝国主義に敗れるのか。断じて違います。

THE TED TIMES 2023-25「ワグネルの反乱」 7/5 編集長 大沢達男

 

プーチンリベラリズム帝国主義に敗れるのか。断じて違います。

 

1、ワグネル

プーチン政権は危ない、ワグネルの反乱がそれを証明している。

プーチンの軍事行動を理解するかのような態度を取ってきた者は、この際今のロシアの状況を説明すべきだと、リベラルな陣営から要請を受けました。

気がすすみませんが、まとめておきます。

ただお断りしておきますが、私はウクライナ戦争に興味を持てません。戦争が嫌いだからです。

国民文学と言われる、司馬遼太郎の『坂の上の雲』にも興味が持てませんでした。戦争に血沸き肉踊らない、軟弱者です。

ですからウクライナ戦争報道をフォローしていません。

以上を前提にして一年前の何を書いたか。再現します。

 

2、リベラリズム帝国主義

プーチンの怒りは『ベルリンの壁』崩壊から始まります。

1991年ドイツ統一のときに米欧は軍事同盟・NATO北大西洋条約機構 1949)を東方拡大しない、とロシアに(口=くち)約束をします。

ところがNATOは1999年にポーランドハンガリーチェコを、

そして2004年にルーマニアスロベニア、バルト3国、ブルガリアスロバキアを加盟させ、

さらに2008年にジョージア(グルジア)、ウクライナを加盟目標に掲げます。

ロシアは『レッドライン(越えてはならない一線)だ』と反発、『両国の加盟はロシアに対する直接的な脅威と強く抗議します(東郷和彦 『文藝春秋』 p.113 )。

プーチンは2021年12月に『ひどく騙された』と積年の恨みを口にします(日経2/16)」。

NATOとは、1949年に設立されたソ連を中心とする共産圏に対抗するための西側の軍事同盟で、基本的人権、民主主義、世界平和が正しいとする『リベラリズム帝国主義』です」。

「リベラルな構造の擁護者の間に論争はあるが、ある1つの帝国主義的ビジョンを支持するという点で一致団結している。つまり、擁護者たちはリベラルな諸原理が普遍法として成文化され、必要とあらば武力でネイション群に課せられる世界を見たいと願っているのだ。このビジョンこそが世界に平和と繁栄をもたらすものだという点で、彼らは一致している(『ナショナリズムの美徳』 p.64 ヨラム・ハゾニー 庭田よう子訳 東洋経済)」。

以上は2022年3月15日に筆車が書いたものですが、それから1年3ヶ月経ちましたが、事情は全く変わっていません。

ワグネルの反乱がウクライナ戦争の新しい局面の何かを証明しているでしょうか。リベラリズム勝利なのでしょうか。違います。

「人権、法の支配、領土不可侵などの『普遍的価値』を掲げて同盟国を募ろうとする米国のやり方は時代に合わない」だけでなく、「民主主義は90年代から00年代にかけて全世界で高まったが、10年代以降は後退している」というのです。(大野健一 政策研究大学院大学名誉教授 日経 6/7)

以上は、日経の「グローバルサウスの実体」という中の文章ですが、べつに大野健一教授の特殊な見解ではありません。

かつての「第3世界」、南北問題の「南」、現在のグローバルサウスの国々は、「ロシアの侵略行為そのものを支持することは避けつつ、先進国の厳しい対ロ姿勢に同情していない」(大庭三枝 神奈川大学教授)のです。

ふたりとも「リベラリズム帝国主義」という言葉を使っていませんが、グローバルサウスのリベラリズム帝国主義への態度をはっきり示しています。

 

3、ニーナ・フルシチョフ

ワグネルの反乱は6月23日に起こりました。

その1日前の22日の日経に、ソ連の最高指導者・フルシチョフの孫娘であるニーナ・フルシチョフが、民間軍事会社ワグネルの創始者エフゴニー・プリゴジンの未来を予言しました。

プリゴジンロシア革命前の最後の皇族・ロマノフ家と親交を結び強い影響力を持った怪僧・ラスプーチンに似ている。ラスプーチンは悲惨な最期を遂げた。プリゴジンも同じような道を歩んでいるのかもしれない」(ニーナ・フルシチョフ 米ニュースクール大教授 日経 6月22日)。

ワグネルの反乱は1日で収束し、プーチンはブリゴジンの動勢については一言も触れていません。無視しています。

ニーナの予想は注目すべきものです。

1)ロシアの支配層は戦争に勝つのは困難だと考え、戦況の深刻化を避ける戦略を立案している。

2)プリゴジンラスプーチンのように悲惨な最後を迎える。

3)プーチン政権もロマノフ王朝のように倒れるのか。ニーナはプーチンに批判的ですが、明言を避けています。

どのような結末をむかえるにせよ、リベラル派が期待するような、ロシアがリベラル帝国主義に敗れるという結末ではありません。