暴走する特捜、責任はマスコミにもある。

THE TED TIMES 2023-29「弘中惇一郎」 8/3 編集長 大沢達男

 

暴走する特捜、責任はマスコミにもある。

 

1、スタンドプレー

5年近く前になりますが、カルロス・ゴーン日産自動車会長が東京地検特捜部に逮捕されたときに、堀江貴文ホリエモン)が言った言葉が、今でも鮮明に残っています。

「特捜部はスタンドプレーが好きだよな」(2018年11月)。

堀江自身、2006年1月に東京地検特捜部に証券取引法違反(偽計、風説の流布)で逮捕され、2011年4月に最高裁への上告が棄却され、懲役2年6ヶ月の実刑判決をうけ、刑に服しているだけに説得力がありました。

スタンドプレートとは、目立つ行動をする、マスコミ受けを狙っている、そしてその行動には誠実さを感じられない、ということです。

田中角栄ロッキード事件ホリエモンライブドア事件カルロス・ゴーンの日産事件・・・法律の素人ですが、特捜部のやることにはいつも疑問を感じていました。

田中角栄の時には、最重要証人に対する反対尋問をする機会が与えられず、有罪が宣告されました。

そして昭和58年1月田中角栄に懲役5年が求刑され、「マスコミはじめ文化人など、日本中が発狂したように喜んだ」(『田中角栄の遺言』 p.248 小室直樹 クレスト社)、のです。

田中角栄逮捕は、マスコミ受けするスタンドプレーで、田中角栄逮捕で世の中がよくなったとは思えません。

なぜならロッキード事件とは、田中角栄を抹殺する米国(キッシンジャー)の陰謀だった、からです。

「角さんという天才がこの国の実質的支配者であったアメリカによって葬られ」(『「私」という男の生涯』 p.325 石原慎太郎 幻冬舎)、

と反金権・反田中だった石原慎太郎が人生の晩年になって田中角栄の支持者になっていたことは象徴的でした。

ホリエモン事件は、2006年1月16日に東京地検特捜部による堀江貴文・自宅の家宅捜索そして22日の逮捕で、始まります。

これも東京地検特捜部のスタンドプレーでした。人気者ホリエモンをターゲットにしただけで、金融市場の改革には繋がりませんでした。

証拠があります。家宅捜索が始まった2日目にイギリスの新聞・フィナンシャル・タイムズが、堀江貴文擁護の論説を掲載しました。

1)堀江氏は官僚主義と慣行主義を打ち破り日本に新風を吹き込むヒーローである。2)堀江氏は金融市場の不備を取引であぶり出している。3)堀江氏は古い勢力の経営者に危機感を与えやる気を起こしている。

フィナンシャル・タイムズの結論は、捜査結果のいかんに関わらず、日本にはホリエモンのような勇敢な革新者必要である、というものです。

日本のマスコミの論調とはまるで正反対の堀江擁護論、つまり日本のマスコミは特捜部の言いなりだっただけです。

カルロス・ゴーン事件はもっとみっともない。事件の本質は、日産の経営陣が特捜部と結託した「ゴーン会長追放」クーデターでした。

新しい上司はフランス人/ボディランゲージも通用しない(缶コーヒー「ジョージア」のCMソング ウルフルズ

日本人の日産首脳陣はフランス人のゴーン会長とコミュニケーションできない、だから誰もが、「Mr.Agree(イエスマン)」になる。それが積もり積もってゴーン会長への鬱積が爆発した、これが事件の本質でした。

ウルフルズのCMソングそのまんまです。マスコミは喜んでゴーン会長を叩きました。テレビは視聴率をあげ、新聞は売れました。特捜部はよくやった。では、日産はゴーン追放以後にいい車を発売したでしょうか。

 

2、弘中惇一郎

以上は法律の素人の雑感でしかありません。検察庁ってなんでしょう。そもそも特捜部って何をするところなのでしょう。

『特捜検察の正体』(弘中惇一郎 講談社現代新書)が、素人の疑問に全て答えてくれます。

検察庁は、裁判所に対応して、最高検察庁最高検)、高等検察庁(高検)、地方検察庁(地検)、区検察庁区検)の四種類があり、特捜部(特別捜査部)があるのは、東京地検大阪地検、名古屋地検の三つだけです。

検事の数は1944人で、東京地検特捜部には30~40人、特捜部への配属は検事の2パーセントの狭き門です。少数精鋭、選ばれたエリートです。

特捜事件は警察を通しません。初めから特捜部が捜査を行います。特捜事件は、検察官が捜査のシナリオを書き、検察官が捜査のプレーヤーで、検察官が捜査をジャッジする審判官なります。

日本の刑事裁判の有罪率は99.9%、先進国で異常に高いものです。問題は・・・冤罪事件があるということです。

なぜ冤罪が起きるのか。自白を中心にした調書中心主義、否認や黙秘をすると保釈を認めてもらえない人質司法、そして特捜部はスコミを利用した世論操作をやるからです。

弘中弁護士は、特捜検察の「20の手口」を紹介しています。自白を迫られるのがいかに恐ろしいことか、保釈を認めない人質司法がいかに人権無視をしたものか、ホラー小説のように暴露しています。

そして弘中は、特捜検察のマスコミを使った世論操作について警告し、『特捜検察の正体』という本を結んでいます。

「報道機関の方々には、自分たちがしていることが冤罪を生み、事件の真相を迷宮に葬り去ることに加担しているかもしれないことに思いを馳せていただきたい」(p.285)

弘中の低姿勢は言外に以下のことを示唆しています。

まず、特捜のスタンドプレーはマスコミ抜きでは成立しないこと。

つぎに、弘中自身が村木厚子事件で無罪を勝ち取ったことは、有罪率99.9%の刑事裁判で、検察だけでなくマスコミも敵にした孤立無援の戦いであったこと。

そして、特捜事件に関するマスコミの報道はまったく当てにならない、つまり特捜検察の世論操作を警告しています。

されに弘中は、特捜検察の世論操作について、詳しく論じています。

まず特捜検察の「手口の14」として、マスコミへの意図的な情報リークをあげています。被疑者の犯罪者としてのイメージを築き上げるためにです。

つぎに「手口の16」で事実をねじ曲げた証拠で世論を誘導することを挙げています。

そして「手口の15」では、情報(言論)統制をあげています。

特捜検察は気に食わない報道があれば、司法記者クラブへ「取材拒否」、「出入り禁止」を命令します。新聞は特捜検察の意向に反した記事は書けません。司法記者クラブは検察に忖度しています。

 

3、東京五輪汚職事件

現在係争中の東京地検特捜部の事件に東京五輪汚職事件があります。

伝わってくるのは、アマチュア・スポーツの祭典を食い物に、利益を貪っていたものがいたというスキャンダルです。その主役にはかつて長時間残業で自殺者を出した電通がいる。いかにもマスコミが喜びそうなストーリーです。

弘中は『特捜検察の正体』の冒頭で、東京五輪汚職事件にもふれています。

「本件は(筆者注:東京五輪汚職事件)、昔から繰り返されている『特捜警察の暴走』が生み出した事件だと言えるだろう。」(p.4)

そしてKADOKAWAはオフィシャルサポーターとして東京オリンピックパラリンピックの公式ガイドブックを制作・販売したが、「出版社として、とうてい儲かる事業ではなかった。報道では『巨悪』のように扱われているが、スポンサーとして行ったビジネスは得をするどころか、赤字覚悟の『慈善事業』だったのである。」(p.4)、とKADOKAWAの「白」を暗示します。

現在、弘中は弁護士として東京五輪汚職事件に元会長の角川歴彦(つぐひこ)の弁護を担当しています。今後が注目されます。

東京五輪汚職事件では、明らかな世論操作もあります。

大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)は受託収賄容疑で逮捕されていますが、このことについて、日本経済新聞は2022年9月に以下のような報道しています。

「組織委の職員には兼業を禁じる規定があったが、理事(筆者注:高橋)には就任時に公序良俗に反する行為をしない旨の誓約書を提出するだけで、兼業の有無は問われなかった。

高橋元理事は『本業』のコンサルタント会社の経営を継続し、今回の不透明な資金提供をうけることにつながった」(日経 2022.9.7)。

さらに「組織委の理事は特措法で『みなし公務員』とされ、職務に関連した金銭を授受すれば、刑法の収賄罪に問われる。担当業務が明示される専務理事や業務執行理事に対し、高橋元理事のような非常勤理事は職務権限に関する明確な規定はなかった。」(日経 2022.9.7)

兼業OK、職務権限不明確。これでは受託収賄剤は成立しません。法律の素人でもわかります。

高橋容疑者は収賄の容疑を否認していますが、当然です。

・・・しかし、しかし、この記事は日経新聞の勇足、特捜検察から厳しい指導を受けたに違いありません。

以後、高橋理事の「兼業OK」、「職務権限不明確」をフォローする記事は、日経に一切現れなくなります。

それどころか、1年後に日経は、正反対の記事を掲載します。

玩具会社の「サン・アロー」の元社長は、公式マスコットの採用を大学の先輩・高橋理事に頼み、理事の指示で大学の同級生のコンサルタント会社に700万円を振り込んだ。

東京五輪事件は、もう一度成長を夢見た戦後世代が一線を越えたときに起きた、とセンチメンタルに総括しています。

そして、「組織委の役職員は東京五輪パラリンピック特別措置法で『みなし公務員』と規定。高橋元理事は長野五輪では民間人だったが、東京五輪ではみなし公務員として公務員同様の刑法が適用された。」(日経 2023.7.23)

同じ日経が1年前に何を書いたか、日経記者が知らないわけはありません。そして前掲は無記名の記事でしたが、今回は記者の名前がある署名記事です。

堀江貴文は「スタンドプレー」の特捜検察と呼びました。

問題は、特捜検察の言いなりなるマスコミ、司法記者クラブです。

ドキュメンタリー映画『iー新聞記者ドキュメントー』(森達也監督)では、官邸記者クラブ(政治部)の様子がよく描かれていました。

司法記者クラブも同じようなものだとすると、背筋が寒くなります。特捜検察の世論操作には気をつけなければいけません。

 

4、アングロ・サクソンとの戦い

2020東京の招致は、2013年のIOC総会(ブエノスアイレス・アルゼンチン)での安倍晋三総理以下のプレゼンテーションで勝利し、決定したものです。

IOCでのプレゼンテーションは、日本が世界に対して初めて成功させた立派なもので、教科書に載せて日本の若者が学び、お手本にしなければならないものでした。

2020東京は、日本に於いては東日本大震災そして福島からの復興を宣言した歴史的な大会でした。

2020東京は、世界的にはアジアの人々の大部分がプライムタイムに観戦した、史上最大のオリンピック・パラリンピックでした。。

2020東京は、日本史にも、世界史にも、大きく記録されるべきものでした。

それを特捜警察は、滅茶苦茶にしました。

なぜ電通がオリンピックやサッカーで強いのか。半世紀以上の長い時間をかけ、先行投資をし、西欧社会に人脈を築き、アングロサクソンと戦いえるようにしてきたからです。

IOC国際オリンピック委員会)も、FIFA(国際サッカー連盟)も西欧人が作り上げたビジネスモデルです。東洋の日本人がそこに食いこんでいくは、簡単なことではありません。

2013年IOC総会での日本の勝利はアングロサクソンとの戦いでの完璧な勝利の象徴でした。電通の半世紀以上の努力が勝利をもたらしました。

特捜検察は、2020東京の意味と意義を、日本の歴史を滅茶苦茶に、破壊しようとしています。

特捜検察からは、国家観が見えてきません。特捜検察には、あるべき日本の国家像がありません。

End