THE TED TIMES 2023-28「パフューム」 7/26 編集長 大沢達男
「パフューム」を初めて見た驚き、それは「未来の記憶」。
1、驚き
7/15~17の音楽イベント「インスパイア・トウキョウ」(代々木体育館)の2日目。
「パフューム」は、「iri」、「いきものがかり」、「YUKI」、「RYUJI IAICHI」、5組のど真ん中に出演しました。
出演2組目の「いきものがかり」のあたりから会場の雰囲気は、おかしくなってきました。
「きょう、『いきものがかり』を見るのが初めての人?」。
メンバーの問いかけに、1万人の観客の8割が「ハーイ!!」と手をあげました。
そしてメンバーは「今日の皆さんのお目当ては『パーフューム』なんですね!」。
・・・なにか会場全体に一種の合意のようなものができてしまいました。
これが驚きの第1です。
でもいまどきの観客は行儀がいい。「いきものがかり」の演奏に、しっかり声援をおくっていました。
主催者のJ-Waveが時間をしっかりマネージメントしたコンサートであったこともありますが、
普通のライブだったら、「早く帰れ」と言わないまでも、冷えた空気が会場に流れていたはずです。
14時30分に「いきものがかり」の演奏は終わり、15時00分から「パーフューム」が登場します。
ところが驚きの第2。
14時50分にパフューム登場の予告アナウンスがあると、1万人の観客は立ち上がり、拍手をし始めたのです。
まだ10分もあるのに・・・。
そのスタンディング・オベーションはパフュームの登場まで途切れることなく続きました。
そして第3の驚き。
15時00分キッカリに、会場のライトが落とされ、観客の拍手もおさまります。
そして「ツアラストラはかく語りき」のようなシンセサイザーが鳴り響き、会場はレーザー光線で光の海のようになります。
「カッコいい!」
何が始まるのだろうか。ドキドキしました。
何年ぶりか、いや何十年ぶりからの心の高揚がありました。
ホント、カッコよかった。
2、フューチャー・ショック
薄手の薄緑と緑のヒラヒラしたコスチュームで「パフューム」登場。ステージにバックバンドはありません。
完璧なコーラスと完璧なダンスが、これでもかこれでもかと続きます。
観客は立ち上がったまま拍手をし、片腕を空に突き上げ、踊ります。
私の頭に「フューチャー・ショック(future shock)」という言葉がよぎりました。
「未来の衝撃」(急に訪れた未来に心がパニックになること)。米国の未来学者アルビン・トフラーが1970年に使った言葉です。
「パフューム」はまさに、フューチャー・ショックでした。
未来を予感させるものでした。
映画「ブレード・ランナー」が描いた、レプリカント(人造人間)の世界を、眼前に見せつけられました。
ボコーダーを通したようなボーカル、コンピュータ・ミュージックのような単調なリズム、そしてレプリカントが踊っているようなダンス・パフォーマンス。
中田ヤスタカの音楽、MIKIKOの振り付け、そしてレザービームを使ったライティングが、フューチャー・ショックを実現していました。
未来を私は見ていました。未来が私を呼んでいました。
数曲、いや10曲ぐらい連続で、歌って踊ったのではないでしょうか。
私はノックアウトされ、ついて行けなくなりそうになり・・・ブレイクになります。
3、コミュニティ
音楽が終わりホッとし、「かしゆか」の語りが始まります。
「パフューム」は広島出身のグループです。
ですから広島でのコンサートは「こんにちは、みなさん、パフュームじゃけんのー」で始まります。
・・・でもこれはウソ。
「パフュームです!」が、広島では「パフュームよ!」になるそうです。
「かしゆか」の語りが始まると、フューチャー・ショックは消え、まるでパスト・ショック(過去の衝撃)。
会場全体は村の青年団の集会のような、古き良きコミュニティの、打ち解けた雰囲気なっていまします。
「かしゆか」の語りはそうした雰囲気を持っています。
「みなさん、きょうは来てくれて、どうもありがとう」
でも・・・なにが言いたいのか、正直よくわかりません。
わかったのは、「パフューム」が2007年の公共広告機構(AC ジャパン)のCMの音楽に「ポリリズム」でブレイクしたことです。
ですから「パフューム」は15年以上もの長い間、第一線で活躍していることになります。
それどころか、「かしゆか」と「あーちゃん」は1998年に芸能スクールで出会っているというのでから、ベテラングループです。
それが証拠に、私にはわかりにくかった、「かしゆか」の語りは観客をしっかり掴んでしました。
「かしゆか」は会場全体を4つのグループに分けて拍手を要求します。
右サイド、左サイド、後ろ、そして前。観客は一糸乱れね拍手で応えます。
パフュームの音楽と踊りは「近未来」ですが、パフュームと観客の関係はノスタルジック共同体、「近過去」でした。
4、未来の記憶
正直に告白します。
私は「パフューム」の3人のメンバーうち、だれかを贔屓(ひいき)に決めたおいた方がいいだろうと考え、「のっち」を応援することに決めていました。
基本のポジションは客席から見て、左が「かしゆか(樫野有香)」、センターが「あーちゃん(西脇綾香)」、そして右が「のっち(大本彩乃)」です。
オペラグラスをのぞく時は、いつもボブカットののっちを見ていました。
「のっち」は164センチで3人のなかでは一番のノッポさんです。
アップで見ていると、必然的に長い足の太ももに視線が行きます。
大腿四頭筋の内側の部分、内側広筋との境目がときどき線のように盛り上がります。
それを見つけるのが楽しみなってしまいました。
「のっち」を中心にパフュームを見た私は、「のっち」を選んだことに間違いはなかったと満足していました。
でも、・・・これは間違いです。
「のっち」の大腿四頭筋にエロチシズムを感じた私は肯定されますが、
「パフューム」は3体のレプリカント・グループとして見るべきです。フューチャー・ショックとしての「パフューム」です。
今年、いろいろなコンサートに出かけ、感激してきました。
でもそれらはすべて「ナツ・メロ」でした。
満足はしたものの、未来につながるサムシングで啓示を受けたわけではない、思い出でしかありませんでした。
しかし、「パフューム」には何かがある。3体のレプリカント・グループには未来の何かがある。
驚きは期待になり、そして「未来の記憶」になりました。
End