『「統一教会」問題の本当の核心』(菅沼光弘 秀和システム)を読む。

THE TED TIMES 2023-34「菅沼光弘」 9/14 編集長 大沢達男

 

『「統一教会」問題の本当の核心』(菅沼光弘 秀和システム)を読む。

 

著者の菅沼光弘(1936~2022)は、元公安調査官です。この著作の後に亡くなられています。

この本の「はじめに」に書いてある通り、この本は著者の「語り下ろし」をベースの本にしたもので、重複している記述もあります。

その意味で、この本は著者が魂をすり減らして書いた「著作」、ないしは読者にその価値を問うような「仕事」ではありません。

この本の魅力は公安調査官という特殊な仕事をしている者のみが知り得た事実がある、一般の読者には興味深い事実がある、というだけです。

かといって、公安調査官が仕事上知り得た秘密を退官後に金儲けのためにベラベラ喋るわけがありません。

素人の私たちには物珍しいが、プロのインテリジェンス・オフィサー(諜報官)にとっては差し障りのないおしゃべりである、と判断した方がよいでしょう。

まず『「統一教会」問題の本当の核心』を要約してご紹介します。

 

1、グック(Gook)

1)文鮮明・・・米国が、儒教の国・韓国をキリスト教徒の国にしよう、と画策します。統一教会はそんな動きの中で誕生した宗教団体の一つです。

共産主義に勝つ「勝共連合」も統一教会文鮮明が創設したもので、統一教会の別名と言ってもいいものです。

統一教会勝共連合を日本に持ち込んだのは岸信介で、安倍一族と統一教会はただならぬ関係にありました(筆者注:ただならぬ関係の事実は記述されていない)。

かと言って、安倍晋三は山上徹也容疑者に殺されたのであって、他に暗殺者がいた「陰謀論」に加担するわけではありません。

2)ドル・・・北朝鮮統一教会は親密な関係にあります。安倍晋三統一教会のルートを使い北朝鮮に接近し、拉致問題を解決しようとしました。

米国が一番許せないのは、日韓、日朝が手を結ぶことです。なぜならドルが基軸通貨でなくなってしまうからです。

米国の狙いは、朝鮮半島や台湾の危機を煽って、日本と韓国の軍備を強くし、米国は引き上げアジア人同士で戦争をさせるものです。

それが米国の軍需産業一番儲かる方法、ドルを強くするからです。

3)白人帝国主義(注:筆者の用語)・・・そもそも米国はアジア人を蔑視しています。日本人の蔑称はジャップ(Jap)、韓国人の蔑称はグック(Gook)です。(注:グックははじめ米比戦争でフィリピン人に使われ、朝鮮戦争で韓国人への蔑称として使われるようになる)。

なぜアジア人を蔑視するか。米国人は神に選ばれているから、米国は、神の使命で自由と民主主義を世界に広げるために、生まれた国家だからです。

 

2、トロキツスト

1)ブレジンスキー・・・米国のウクライナ侵攻理論の基礎を作ったのは、ポーランド生まれのズビグネフ・ブレジンスキー(1928~2017)の影響を受けた、ネオコンです。

2)永続革命・・・ネオコンはトロキツストで、ロシア革命におけるトロツキーらのユダヤ人左翼です。永続革命のトロツキーは、一国社会主義スターリンと対立し、同志たちとロシアを逃れます。

その同志たちが米国民主党に入りその後、共和党に移ります。そして永続革命、世界革命にかわり、「自由と民主主義で世界統一政府を作ろう」という方針を持つようになります(注:リベラリズム帝国主義)。

ブレジンスキーウクライナには広大な土地を持っていました。それが現在のウクライナ問題にまで発展しています。

3)ヌーランド・・・今回のウクライナ戦争の背後にいるのはユダヤ人で国務次官のヴィクトリア・ヌーランドです。ヌーランドが画策しロシアが先に手を出すように仕向けました。

 

3、ハーディー・バラック

1)安保法制・・・安倍晋三の最大のレガシーは2015年の安保法制(平和安全法制)です。

昭和32、3年の砂川闘争で最高裁が認めた「自衛権」を、個別的自衛権から集団的自衛権までに拡張しその行使を、現憲法下でも認めたことです。

2)自衛隊・・・集団的自衛権が認められても、自衛官が発砲する法的根拠は警察官職務執行法である、自衛隊は有事のときに米軍司令官の命令で発砲する、など周辺の法整備はできていません。

一方で、海上自衛隊は開戦と同時に、中国に潜水艦を一隻残らず沈没させるだけの、実力を持っています。帝国海軍以来の伝統を持つ海上自衛隊にとって、戦後にできたばかり中国海軍など敵ではありません(注:疑わしい。公安調査官は軍事評論家ではない)。

3)米国の属国・・・米大統領は訪日するとき、横田基地から六本木の赤坂プレスセンター「ハーディー・バラックス」と呼ばれる米軍ヘリポートに降り立ちます。(注:「Hardy Barracks」とは、朝鮮戦争で死亡したエルマー・ハーディー伍長に由来するもの「ハーディー兵舎」の意味)。

日本はいまだに米国の属国です。結論、自分の国は自分で守ること、日本国憲法の改正です。

***

以上は、『「統一教会」問題の本当の核心』からの要約です。

 

4、安倍晋三

菅沼光弘は、安倍晋三は陰謀で暗殺されたわけではないと、否定していますが、菅沼光弘の指摘に従えば、

安倍晋三ほど、トランプ大統領との付き合いに見られるように「親米」でありながら、日露、日朝、戦後レジームからの脱却と「反米」の政策をとった、政治家はいなかったことになります。

ちょうどいい機会です。安倍晋三の政治家としての卓越した能力と実績を分析してみます。

 

まず外交です。

安倍晋三は、国際基準の能力を持ったビジネス・パースンでした。

コミュニケーション、ディベート、プレゼンテーションで優れていました。

1)コミュニケーション・・・まずプーチンとの付き合い。ロシア・ソチ五輪の開会式をオバマ(米国)、オランド(フランス)など各国首脳がボイコットするなか、安倍はチャンスと見て開会式に出席し、首脳会談をしています。

プーチンは日本から贈られた秋田犬を連れていました。「噛まれるかもしれないぞ」、とプーチンは脅します。そしてプーチンと安倍はいっきに信頼関係を築くようになります。

安倍は4島一括返還から2島返還へと大きく舵をきりますが、実現しませんでした、誠に残念です。

それよりもっと悔やまれるのは、ロシアのウクライナへの軍事作戦に対して安倍ならば、プーチンとサシで話し合い「リベラリズム帝国主義」に反旗を翻し終戦への大きな役割を果たせたはず、のことです。

一方で、トランプ米国大統領とは恋人同士のような友人になっています。トランプが電話をしてくると1時間は話します。

しかも本題は前半の15分だけ、あとはゴルフと他国の首脳の悪口(『安倍晋三回顧録』 p.180 中央公論新社)、それに付き合う安倍は見上げたものです。

なぜうまくいったから、ゴルフもそうですが、安倍はトランプが当選するや否や就任前にニューヨークのトランプ・タワーに足を運び、面談したいるからです(p.235)。

トランプが皇居で天皇陛下にお目にかかる時の印象的なワン・シーンがあります。

「シンゾウは私と会う時、いつもスーツのボタンをしているけど、私もした方がいいか」、

それに対して安倍は「私の前ではしなくていいから、陛下の前ではボタンをしてくれ」とお願いしたそうです(p.348)。

 

2)ネゴシエーションディベート)・・・オバマ米大統領と銀座の「すきやばし次郎」で話します。オバマは元弁護士、雑談なし、仕事の話だけの人でした。

オバマは「自分はこの店に来るまで、1台も見ていない」「輸入しろ」と迫ってきます。

安倍は「ではちょっと店を出て、外を見てみましょうか。BMW、ベンツ、アウディフォルクスワーゲン。いくらだって外車は走っている。でも、確かにアメ車はない。なぜかって、車を見ればすぐわかりますよ。ハンドルの位置が違うんです。アメリカ車は、右ハンドルを変えず、左ハンドルもまま売ろうとしている」「努力をしていただけなかったら、売れるはずはないでしょう」。オバマは黙りました(p.131)。

メルケルドイツ首相は、中国重視のくせに、口先だけ中国の膨張政策を批判します。そこで安倍は議論はぶつけます。

「ところで、ドイツのエンジンメーカーは、中国にディーゼル・エンジンを売っていますね。中国海軍は、ドイツ製のエンジンを駆逐艦や潜水艦に搭載している。これは、いったいどういうことですか」。

メルケルは「え?そうなの?」と言って、後方に控えている官僚の方を振り向いて聞きました。(p.189)。

いままでだれが、これからだれが、こういったディベートができるでしょうか。安倍晋三以外にいません。

 

3)プレゼンテーション

まず安倍晋三は、2015年4月29日、米国上下両院合同会議で「希望の同盟へ」という英語による演説を行います。

かつての祖父岸信介の上下院での演説、サラリーマン時代のニューヨーク勤務、ワシントンの第2次世界大戦メモリアル訪問。

高校時代に好きだったキャロル・キングの「You’ve Got a Friend」の「あなたにとって最も暗い夜でも、私が明るくしてあげる」という歌詞のように、東日本大震災という「darkest night」に、米軍がトモダチ作戦で支援を差し伸べてくれた、と安倍は結びました。

何回もスタンディング・オベーションが起きました。安部は7年9ヶ月の長期政権の中でも、最も心に残る演説になったと言います(p.157~8)。

次に安倍晋三は、第1次内閣でインド訪問時に「二つの海の交わり」というスピーチをします。そしてこれが2016年の「自由で開かれたインド太平洋構想」につながっていきます(p.159)。

FOIP(Free and Open Indo-Pacific Strategy=自由で開かれたインド太平洋戦略)は、日米豪印の4カ国が、自由の海として繁栄の海として海洋の権益を守っていく、ことを訴えたもので、戦前の大東亜共栄圏に代わるものです。

そして時代は前後しますが安倍晋三は2013年のIOC総会で、2020東京五輪パラリンピック招致の国際プレゼンテーションを行い、招致決定という大勝利を収めています。

安倍をはじめとする8人のプレゼンターが、日本語ではなく英語とフランス語でMBA経営学修士)の教科書通り、完璧なプレゼンテーションをしました。これはすべての高校生・大学生が学ぶべきものです。

2020東京は、コロナの影響で1年遅れて開催され、日本は東日本大震災から立ち直ります。

 

次に内政です。

安倍晋三は、和魂洋才にして、世界雄飛を目指す、愛国主義者でした。

1)アベノミクス

2013年6月の安倍内閣アベノミクスは以下の通りです。

第一の矢。「大胆な金融政策」。・・・デフレ対策として2%のインフレ目標量的緩和円高の是正。(リフレ政策)

第二の矢。「機動的な財政政策」。・・・公共投資。(ケインズ政策

第三の矢。「民間投資を喚起する成長戦略」。・・・全員参加、若者、女性、健康長寿社会の成長産業。(サプライサイド政策=減税、規制緩和、小さな政府)

アベノミクスには、さまざまな経済思想による政策が盛り込まれています。リフレ、ケインズ、サプライサイド、古典派経済学。小さな政府主張するフリードマンの影響も見逃すことはできません。

世界の経済学者が注目する経済政策でした。対してアベノミクス批判者の批判は、経済学的批判になっていませんでした。

 

2)安保法制

安倍晋三は、安全保障機構及び制度全体に対する改革をやりました。

まず、2007年の防衛庁防衛省への昇格です。

2013年には特定秘密保護法。安全保障に関する機密情報の保全が強化されました。

2014年の国家安全保障局(NSS)の発足。安全保障では、外務省と防衛省の個別対応から、官邸が司令塔になりました。

2014年には集団的自衛権を可能にする憲法解釈を変更します。

2015年には平和安全法制を制定。同盟国が攻撃された際、自国が直接攻撃されていなくても共同で反撃できる集団的自衛権です。

さらに2022年の経済安全保障推進法があります。

しかし日本国憲法下では安法法制に限界がありました。日本国憲法改正だけが残されました。

 

3)戦後レジームからの脱却

安倍晋三は親米以上に愛国者でした。

その証拠が「戦後レジーム」からの脱却です。

第一次安倍内閣は、2006年9月に発足しわずか1年で退陣しますが、その間に教育基本法改正、防衛庁の省昇格、憲法改正のための国民投票法の制定など、戦後の日本を支えてきた根幹を変えました。

教育基本法には「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに」の一文を入れました(注:「愛国心」の代わりにこの表現が使われた)。

万葉集からの「令和」の制定も安倍内閣の時代でした。

最終目標はもちろん占領軍が作った「日本国憲法」の改正、自主憲法の制定です。

吉田松陰がいます。幕末、欧米列強に平身低頭して皇室を軽んずる幕府に業を煮やし、尊皇の気概を元手に、開国、通商大国への歩むべきである。「江戸幕府ジーム」からの脱却を主張しました。

三島由紀夫がいます。日本は自己決定権をうしなったまま平和と繁栄を貪っている。どうして自分らを否定する憲法というものにペコペコするんだ。「日本国憲法」からの脱却を主張しました(『約束の日 安倍晋三試論』 小沢榮太郎 幻冬舎)。

その願いがかなう日は、安倍晋三の死によって、遥かに遠のきました。

吉田松陰(1859年 死刑 29歳没)、三島由紀夫(1970年 自決 45歳没)、安倍晋三(2022年 銃撃 67歳没)。 

 

安倍晋三を誰に比べればいいのでしょうか。

安保条約を改定した岸信介でしょうか。沖縄返還を成し遂げた佐藤栄作でしょうか。日中平和への道を開いた田中角栄でしょうか。

外交では断然ピカイチ、内政でも憲法改正はできなかったもののピカイチ、安倍晋三が断然光ります。

そしてしばらく安倍晋三に匹敵する政治家は出現しないと予想されます。

 

End