年の暮れに冴えない話題ですが、いわゆる認知症は病気ではありません。

THE TED TIMES 2023-50「認知症」 12/25 編集長 大沢達男

 

年の暮れに冴えない話題ですが、いわゆる認知症は病気ではありません。

 

1、「認知症

認知症」はdementiaの訳語として、2004年に政府によって採択された言葉です。それまでは痴呆症。「痴呆」は侮蔑的だということで認知症に変更されました。

認知症とは、高齢化によるボケ、耄碌(もおろく)、痴呆のことです。認知症は病気ではありません。老化現象です。

まず認知症になる人が85歳以上では4割、90歳以上では6割を超えます。世代の半分以上が同じ病気になるのはおかしい。老化現象と考えたほうがいいのです。

つぎに認知症には、アルツハイマー型、血管性、レビー小体型などがありますが、圧倒的多数派アルツハイマー型です。

アルツハイマー型はアミロイドβという蛋白が脳に沈着しておこります。正常な人でも年齢と共に増えます。増え方が大きければ、認知症になります。その状態は異常ですが、異常だから病気だというのはおかしいのです。

つまり高齢者の認知症とは病気ではなく、老化現象です。「ボケたな」、「耄碌(もおろく)したな」、が正しい言い方です(「認知症は病気ではない」奥野修司 『文藝春秋』2023.8 p.332~341)。

(注:それにしても「認知症」というネーミングは政府のやった大失敗の。まず認知症の「認知」は認知科学(cognitive science)の「認知」とは全く関係がない。つぎに「痴呆症」を否定するだけに力が注がれ、新しい名前を開発するためにネーミングのプロの意見を全く聞いていない。混乱は「認知症」という言葉から始まっている。たとえば元CMクリエーターの私なら「熟年症」を提案する)。

2、認知症基本法とレカネマブ

1)2023年6月に「共生社会を実現を推進するための認知症基本法」が成立しました。認知症基本法では、予防や治療法だけでなく、認知症との共生が掲げられています。

インフォームドコンセント(説明と同意)の難しさ。説明を受けても、ひとりで治療を選ぶことができない患者が増えている。○意思決定能力が低下した人を包摂する民法を考える必要がある。○支援も必要だが、高齢者の自律的生活を保証することも必要。○アルツハイマー認知症の患者は相手の意見に同調する傾向が強くなる。理解していなくても「ハイ!」。リスクを伴う医療行為に対する同意能力を確認する必要がある(成本迅京都府立医科大学教授 日経11/3)。

どれもこれも厄介な問題ですが、<認知症の人が地域で尊厳を保持し他の人と共生し、そして認知症の予防・診断・治療・リハリビリテーションの研究成果を普及・活用・発展させることが必要>です(池田学 大阪大学教授 日経11/2)。

2)23年9月にアルツハイマー病に新しい治療薬レカネマブの製造販売が承認されています。従来の治療薬は対症療法薬でした。

レカネマブは、アルツハイマー病の脳内で起きる「アミロイドβ」と呼ばれる異常なタンパク質を抗体により脳から取り除き、病気の進行そのものに影響を与えるものです。

<当事者も介護者も、医師任せ、ケアマネジャー任せにするのではなく、どのような治療と介護を望んでいるか、しっかりと意思を伝えて、専門職と協働で治療や介護を選択する時代が訪れようとしている>と池田教授の文章は結ばれています。

3、老化現象

認知症患者の推計値は600万人以上、軽度認知障害(MCI)は500万人以上(池田教授)、つまり日本の人口を1億1000万とすると、10人に1人は認知症ということになります。日本人の10人に1人が認知症ではおかしい。

そこで冒頭の「認知症は病気ではない」に戻ります。やはり認知症に、「予防・診断・治療・リハビリ」という言葉はなじみません。「認知症」とは「熟年症」。加齢によるボケ、耄碌(もおろく)です。

80歳を過ぎたら、生活のダウンサイジング、外出や習い事を減らす、撤退戦を考えるべきです(前出奥野修司)。それでもあなたは不老不死を望みますか。