THE TED TIMES 2024-27「EV」 7/6 編集長 大沢達男
次世代自動車競争の決着は50年後、EV(電気自動車)の未来はバラ色ではありません。
1、スターのおもちゃとしての「EV(電気自動車)』
ハリウッドの映画スター、レオナルド・ディカプリオがハイブリッドのエコカー「プリウス」でアカデミー賞のレッドカーペットに現れたのは2005年のことでした。
以来、レオナルドは「エコカーの王子」と呼ばれ、さまざまなEVをはじめとする、エコカーを乗り継いできました。
もちろん「テスラ」もその中の1台です。
「テスラ」というと私は、香港の友達で映画スターで歌手のイーキン・チェン(鄭伊健)を思い出します。
注文したのになかなかクルマが来なかったから、10年以上昔なのでしょう。ずいぶん前にテスラを買いました。
充電スタンドなんか整備される前です。
イーキンは運転が好きでゲーム好きだから「テスラ」を選んだのかもしれませんが、エコロジー志向のステータス・シンボルとして「テスラ」を選択したであろうことは否定できません。
そのかっこいいEVですが、いまその時代の寵児の地位を明け渡そうとしています。
2、EV時代の終わり
なぜEVがヒットしたか。それは政府の指導で導入されたからです。
象徴的なのは、EUでは2035年以降ガソリン車の販売が禁止されたことです。
さらにEVの購入補助金支給や、税制優遇などの消費者援助が行われました。
EVブームは政府により演出された消費ブームでした。
そしていまEVは市場メカニズムにさらされ、「EVシフトの減速」、「EV退潮」が、起きています。
1)EVだけがカーボン・ニュートラルを実現するものではない。EVは生産時の炭酸ガスの排出量が多い。
2)ハイブリッド車、内燃機関車も合成燃料の発達でカーボン・ニュートラルを実現するものになっている。
3)EVの商品力に疑問がある。ワクワク体験ではなくイライラ体験が多い。EVは新たな価値創造をする必要がある。
そして次世代自動車競争は、EVの勝ちで決まるのではなく、今後数十年のマラソンで、いまはその序盤戦だというのです。
以上は、「EVの現在地」 柴田友厚 藤本隆宏(日経5/28 5/29)からです。
3、アイルトン・セナ
自動車の歴史は、まずモーター・レースがあり、その技術的成果を発表する国際的な自動車ショーがあり、そしてニューモデルの市販車販売、このサイクルの繰り返しで発達してきました。
自動車の発展にはレースが不可欠でした。
爆音を発し時速300Kmで走るモーター・レース・F1のヒーローがアイルトン・セナです。今年で彼が亡くなってから30年になります。
なぜ彼があり人気があり「音速の貴公子」と呼ばれるのか。アイルトン・セナがテクノロジーを超えていたドライバーだったからです。
コンピュータがレースをシミュレーションし、タイヤが最適ラインを走ればこれぐらいのタイムは出せる、と結論します。
ところがアイルトン・セナは必ずそのタイムを超えてきた、という伝説を持っていました(「アイルトン・セナよ、永遠に」 p.237 『文藝春秋』 2024.7)。
セナがドライブしていたのはホンダです。バリバリバリという低音の音を出し走っていました。
対してナイジェル・マンセルのフェラーリは、淑女が泣き叫ぶようなキューンキューンという高周波の、フェラーリ・サウンドを出していました。
EVにもフォーミュラーEというレースがあります。しかし無音。しかしここからアイルトン・セナは生まれないでしょう。
EVのワクワク体験の創造のむずかしさ、EVの新たな価値創造のむずかしさはここにあります。