いまだって慎一郎は生きている 短歌を壊し再生させた(達男)

THE TED TIMES 2024-28「萩原慎一郎」 7/13 編集長 大沢達男

 

いまだって慎一郎は生きている 短歌を壊し再生させた(達男)

 

1、口語短歌

 

抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ

 

路上音楽家の叫び虚しく誰ひとり立ち止まることなく過ぎるのみ

 

家にいるだけではだめだ ぼくたちは芭蕉のように旅人になれ

 

まだ結果だせず野にある自販機で買いたるコーラいまに見ていろ

 

内部にて光り始めて(ここからだ)恋も短歌も人生だって

 

蒼き旗振り廻すかのように歌 僕の叫びを発信したり

 

空を飛ぶための翼になるはずさ ぼくの愛する三十一文字が

 

文語崩しの口語短歌を作るべく日々研究しているぼくだ

 

まず文語そしてハンマー手に持って口語短歌に変えていくのさ

 

いきいきと躍動をするそのこころ伝えるための口語短歌だ

 

2、非正規労働者

 

夕焼けをおつまみにして飲むビール一篇の詩となれこの孤独

 

クロールのように未来へ手を伸ばせ闇が僕らを追い越す前に

 

あの角を曲がれば そうさ 新緑に出逢えるはずと心躍れり

 

空だって泣きたいときもあるだろう葡萄のような大粒の雨

 

レインボーブリッジ渡る真昼間の空のきらきら海のキラキラ

 

街風に吹かれて「僕の居場所などあるのかい?」って疑いたくなる

 

この街で今日もやりきれぬ感情を抱いているのはぼくだけじゃない

 

傷ついてしまったこころ どぼどぼと見えぬ血液垂れているなり

 

ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる

 

非正規という受け入れがたき現状を受け入りながら生きているのだ

 

3、恋愛

 

いつの日もきみの本心見えなくてジェットコースターの浮き沈みあり

 

きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい

 

君からのエールはつまり人生を走り続けるためのガソリン

 

天丼を食べているのだ 愛しても愛しても愛届くことなく

 

われを待つひとが未来にいることを願ってともすひとりの部屋を

 

あこがれのままで終わってしまいたくないあこがれのひとがいるのだ

 

きみじゃないきみを探すよ あの街にさよならをしてどこかの街で

 

おもいきり空に向かって叫ぶのだ 短歌が好きだ あなたが好きだ

 

好きだ 好きだ 好きだ 好きだと伝えても届かない恋ばかりしてきた

 

きみはいまだにぼくのこころが所有するプールのなかを泳いでいるよ

 

***

原慎一郎(1984~2017)はたった一冊の歌集『滑走路』(角川文庫)を残して亡くなりました。

それもまだ出版される前に、自分で選歌しあとがきまで書いて、いながらにです。

以上は『滑走路』から私が好きな歌を選んで、1)口語短歌 2)非正規労働者 3)恋愛、三つのジャンルに分けたものです。

もちろんジャンル分けは勝手に私がしたもの、このことで『滑走路』の全貌がよりはっきりした、ように思えたからです。

さらに選ぶなら、それぞれのジャンルから次の3首です。

 

まだ結果だせず野にある自販機で買いたるコーラいまに見ていろ

 

クロールのように未来へ手を伸ばせ闇が僕らを追い越す前に

 

きみじゃないきみを探すよ あの街にさよならをしてどこかの街で

 

成り上がろうとしている、潔(いさぎよ)い、萩原慎一郎が好きです。

いまだに、成り上がろうとしてあがいている、私の自分自身の姿が見えるからです。

つまり萩原慎一郎は、本の完成形が見えた時点で「結果が出た」と自らの生の使命を完遂した、と思ったかもしれません。

 

『滑走路』翼広げてきみが逝き口語短歌の星が生まれた(達男)