「東京タワー」を見ましたか。

コンテンツ・ビジネス塾「東京タワー」(2007-17) 5/1塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

○映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(以下『東京タワー』と略す)を見ましたか。
東京タワーとは、東京の芝公園に立つテレビ塔です。高さは333m、昭和33年(1968)に建設されました。この東京タワーを題名にした小説と映画が売れているのです。リリー・フランキーの小説(扶桑社)は2005年6月発売以来2年弱で、200万部以上という大ベストセラー、映画の方はまだ公開されたばかりですが、こちらも絶好調です。
ストーリーは簡単です。九州で生まれた少年(ボク)は、父(オトン)がいるにもかかわらず母(オカン)とだけ生活し、大きくなります。やがて大学に通うためにひとりで上京します。都会は誘惑します。麻雀、酒、借金で、ダメになりかけますが、どうにか卒業します。やがて田舎から母を東京に呼び寄せ一緒に暮らすようになります。母は、料理がうまく性格が明るい。東京で息子の友だちの人気者になります。しかし母はガンに。田舎から別居していた父も病院を訪れ、亭主と息子に囲まれ死んでいくのです。ボクは迷惑をかけっぱなしだったが、最後は孝行できたという美しい話です。
2時間22分、新宿の映画館には、若者、カップル、団塊世代、さまざまな人が座っていました。でも最後の30分は、全員のすすり泣きが聞こえてくるようでした。
○「東京タワー」が、日本のコンテンツ製作の実力です。
小説と映画、印象は変わらないけど、ズバリ映画の方がいいのです。なぜか。まず松尾スズキの脚本です。ボクの東京での彼女ミズエ(松たか子)を書き込み、強い存在感を与えたことです。これにより、結末はボクの将来を想像させるものになりました。あの頃はよかった、田舎はよかった、母は強く優しかった、というベッタリした感傷映画の色彩が薄れたからです。
もうひとつの魅力は、3人の女優です。まずオカンの樹木希林(キキキリン)。「?」はいろいろありますが、まあ彼女の代表作になるでしょう。つぎは、若い頃のオカンを演じた内田也哉子樹木希林とロック界の大物で俳優の内田裕也との間のお嬢さまです。初めての映画出演。しかも母との共演。母はなにもアドバイスしなかったそうです。しかし内田さんの存在感はすごい。カメラの前に立つ、それだけで哀愁があるのです。演技ができるだの、セリフがうまいだの、そんなことは関係ないのです。内田也哉子に会えるだけで、この映画には価値があります。もうひとりは先ほど触れた松たか子です。彼女はなんで「普通」で、「特別」なのでしょうか。あと、福山雅治のテーマソング「東京にもあったんだ」も、いいです。
○キケンな日本人。
06年に日本アカデミー賞を独占した映画あります。「ALWAYS 三丁目の夕日」。これも東京タワーを主役にした映画です。映画「東京タワー」より、すこし前の時代の話。これも涙涙の映画でした。
青森から集団就職でやってきた中卒の少女が、ふるさとを振り向かず、がまんにがまんを重ねて、休まず働き、年末が来てやっとお休み、みんなの好意でふるさとの母のもとに帰る話です。
高度成長が始まる頃、人間の絆のなかで、日本じゅうががんばっていました。やさしい思いやり、はげまし合いと助け合い、あの頃の日本はよかったと、みんなは涙を流したのです。
作者は怒るでしょうが、「三丁目の夕日」も「東京タワー」も同じです。日本人はいいという話です。
小説「東京タワー」には恐ろしい話が出てきます。ハワイのホテルのプールで騒ぐオカンたちを、苦々しく見るアメリカ人に、ボクが「ざまあみろ」思うのです(P234)。日本人は複雑です。そして、これは小説ではないのですがやはり200万部以上売れて、日本人の圧倒的な支持を受けている、「国家の品格」(藤原正彦 新潮社)があります。この本は、日本人は優れている、市場主義は間違えている、武士道を世界に説いてまわれ、と主張します。
07年元旦の日経新聞は、日本は鎖国している、日本人は心を開いていないと、経済のデータをもとに指摘しました。クラスメートを見て、ボクは偉いと思ったら、その生徒がおしまいになるように、世界を見て日本は偉いと思い始めたら、それは日本の没落を意味します。
新東京タワーは、610m、2011年に東京墨田区に完成します。その時までに日本人はきっと生まれ変わっていると信じます。