ファーストリテイリングの敗退。

コンテンツ・ビジネス塾「ファーストリテイリング」(2007-32)8/14塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

○バーニーズ買収失敗
1ヶ月以上もワクワクしながら見守っていたのですが、やっぱりだめでした。ユニクロファーストリテイリング(FR)は、米高級衣料品専門店バーニーズ・ニューヨークの買収を断念する、と発表しました(日経8/10)。FRは、2010年に売上高1兆円を目標に掲げています。現在の売上高は5350億円(ユニクロはその80%)。残りの3000~4000億円をM&Aで達成しようとしているのです。バーニーズの売上だけではこの数字はとてもまかないきれませんが、バーニーズの高い知名度をテコに、一気に世界展開する戦略だったのです。買収劇を振り返り、問題点を考えてみます。
バーニーズ・ニューヨークを持っているのは、米ジョーンズ・アパレル・グループ。買収劇で競合したのは、ドバイ政府系投資会社のイスティスマルです。6/22、ジョーンズはイスティスマルの買収金額8億2500万ドルで基本合意。7/5、FRがジョーンズに9億ドルで買収提案。7/22、新たな企業から買収提案がなくFRとイスティスマルの一騎打ちに。8/1、ジョーンズはFRの提案が有利と発表。8/5、イスティスマルが買収額を9億ドルにアップ。FRも9億5000万ドルにアップ。8/8、イスティスマル9億4230万ドルにアップ(ジョーンズがFRに売却する場合は、基本合意に達していたイスティスマルに違約金3470万ドル支払う)。8/9、FR買収断念(日経8/10)。イスティスマルとは、巨額のオイルマネーを原資とした国家ファンド。今年6月には英豪華客船クイーン・エリザベス2世を1億ドルで買収しその名を知られるようになっています。今回のバーニーズ買収も知名度獲得狙いといわれ、その豊富な資金力は要警戒とされています(ビジネスアイ8/10)。
○交渉術
FRは昨年も香港ジョルダーノへのTOB(株式公開買い付け)を断念しています。いわば二度目の失敗です。交渉しない交渉、武力による交渉、取引による交渉、外交交渉の専門家インテリジェンス(諜報=スパイ)の佐藤優氏は、さまざまな交渉を教えてくれます。交渉術の観点から今回の断念はどう評価されるのでしょうか。
買収劇のクライマックスで日経は柳井正氏(FR会長兼社長)の交渉術の巧拙に焦点をあてています。そして結論として、出遅れ、違約金、読みの甘さなどが指摘され、そもそもジョーンズはFRにバーニーズを売る気がなかったとまで言われてしまっています。柳井氏は一本気で駆け引きが嫌い。相手は何でもありの世界。これでは勝ち目がないと酷評されています。さらにおかしいのは株式市場です。買収を表明したらFRの株価を下げ、断念したら値上がりしたというのですから(日経、ビジネスアイ8/10)。憧れのバーニーズを日本のユニクロが買収するなんてすごい、高校生のように夢を膨らませていたの、私たちだけだったようです。
ファーストリテイリング
ファーストリテイリングとは、ファーストフードから考えられた社名です。つまりハンバーガーやフライドチキンや牛丼のように、早く、安く、おしゃれ(うまい)ができるという夢を掲げた会社です。柳井氏はアメリカの大学の生協売店(Book Store)の売り場をひとつの理想として考えていました。国内での店舗展開では、それでやって行けました。しかし、外国となると違ってきました。それは2006年秋のユニクロ・ニューヨーク店オープンのときにあきらかになりました。
「FROM TOKYO TO NEW YORK」、キャッチコピーはかっこよかったのですが、語るべき言葉はなにもありませんでした。アイデンティティ、レジェンド、カルチャーがなかったのです。王室御用達の伝統、シャネルやアルマーニといったデザイナーの個性、あるいはヒッピーカルチャー、ゲイカルチャー、ロハスといった主張がなかったのです。FRに足りないものは、交渉術、資金力、いろいろあるでしょう。でもそこは専門家に任せます。私たちは、柳井氏に進言します。いま必要なのは、ファーストリテイリング(FR)やユニーククロウジング(UNIQLO)というコンセプトを追い越す、カルチャーでは、ないのでしょうか。2008年にはスウェーデンの「H&M(へネス&モーリッツ)」が、2009年にはアメリカの「アバクロンビー&フィッチ」が銀座にやってきます。ユニクロに負けて欲しくないのです。新しいカルチャーで対決して欲しいのです。もとヒッピーの柳井さんならできると思うのですが。