クリエーターは育てられますか。

コンテンツ・ビジネス塾「クリエーター育成」(2007-43)10/30塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

○どうやってクリエーターを育てるか。
映画スター・ウォーズの監督ジョージ・ルーカスが卒業した、南カリフォルニア大学(USC)の先生が講演するセミナーが、東京六本木のアカデミーヒルズで開かれました。先生とは、USCの映像芸術学部長のエリザベス・M・デイリーさんです。セミナーは、コ・フェスタのひとつのイベントとして開かれました。話の本題に入る前に、なじみのない「コ・フェスタ」について解説します。コ・フェスタとは、JAPAN国際コンテンツフェスティバル(JAPAN INTERNATIONAL CONTENTS FESTIVAL)のことで、コンテンツ産業全体のお祭りです。東京ゲームショウシーテック東京国際映画祭秋葉原エンタまつり・・・などのイベントを統合し、世界最大規模の総合的コンテンツフェスティバルとして企画されたものです。だれがこんなことを考えたのか。それは日本政府です。政府が定めた知的財産推進計画2007にはこう書いてあります。<コンテンツをいかした文化創造国家づくり><世界最先端のコンテンツ大国を実現する><コンテンツ人材の育成を図る><プロデューサーやクリエーターを育成する>。クリエーターになりたい人がクリエーターになるのではありません。クリエーターを育てることが日本の国家戦略。これがコ・フェスタでの人材育成セミナーの目的です。
○どうしたらジョージ・ルーカスになれるか。
USCの映像芸術学部の学部長・デイリーさんは、頼りになりそうな姐御肌(あねごはだ)。もう15年以上学部長を勤め、映像産業の協力関係と最新の映像技術に対応するカリキュラムを築き、”敏腕”ぶりで世界にその名を知られている人です。
USCの入試は、SAT(米大学進学適性テスト)とトッフル(英語力)の試験結果、作品集、推薦状、批評、エッセイ、映画の企画書で行われます。文章は本人作かどうかわからないので、面接が重視されます。合格するのは志願者の6%。難関です。学校は、FACULTY(才能)、FACILITY(設備)、PRACTICE(演習)の3つのキーワードを軸に運営されています。体を動かし学習します。業界文化を理解します。卒業したら即戦力です。コンテンツづくりの幅広い知識を学習します。将来プロデューサーになる人でもカメラの知識はあった方がいいのです。いちばん大切なのはコラボレーション(協力)です。実力があっても大成できないのはコラボレーションが苦手の人です。映像業界には「USCマフィア」があります。USCで知り合った友人は生涯にわたる貴重な財産になります。卒業生は、ジョージ・ルーカスだけではありません。セミナーの会場では、数十名にわたるビッグネームの卒業生リストが配られました。作家も、批評家も、音楽家も、カメラマンも、監督も、プロデューサーも、制作スタジオの社長も、みんなUSCの出身者です。スパイダーマン、スーパーマンオースティン・パワーズ青い珊瑚礁、そしてスター・ウォーズ、みんなUSCマフィアの作品です。
○議論でクリエーターは育つのか。
質問:「日本の大学を出て米国で勉強し、学生時代にはコンクールで金賞をとりました。しかし、いまだに監督としてデビューできないでいる、どうやってチャンスをつかんだらいいのでしょう・・・・・・」
解答:「世の中にはいろいろな仕事があります。ほかの仕事を選んだらどうでしょう(笑)」
教え子を心配する大学の先生の質問に答えたのは、デイリーさんのとなりに座っていた、業界バリバリといった感じのハイドマンさん(AFI/米映画協会特別顧問)でした。
リエーターは、ナンバーワンで、オンリーワンのすばらしい仕事です。しかし、クリエーターをやったことのない人は、クリエーターの苦しみと悲しみを知りません。それはクリエーターの仕事が、頭ではなく心の仕事だからです。表現がNOになったとき、クリエーターは絶望します。自分の人生そのものを否定されたように感じます。天才的なクリエーターは自殺を含めて若くして死んでいきます。絶望に耐えられる「鈍感力」もクリエーターの資質です。
「クリエーター以外の仕事を・・・・・・」。ハイドマンさんの答えは正しいのです。そしてそれを当然という顔で聞いていたデイリーさんも、クリエーターの仕事の本質を知っている人です。クリエーターは、オンリーワンで、ナンバーワン。そしてなによりもロンリーワンの仕事です。「感じるものにとってはこの世は悲劇であるが、考えるものにとっては喜劇である」。心の仕事は悲しい仕事です。