ロボットが危ない。

コンテンツ・ビジネス塾「ロボット工学3原則」(2007-49)12/11塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

○バイオリンを弾くロボット。
12/6の夜9時、NHKニュースのトップは、バイオリンを弾くロボットのショッキングな映像で始まりました。人間のように二本足でしっかり立っています。腕を動かし見事に弓を操ります。ピッチ(音程)は確か、テンポもOK、壁に映ったシルエットだけを見ていれば、バイオリニストが弾いているように見えます。音楽を理解するロボットは、あたかも人の心を持っているかのように思えたのです。このロボットは、世界一のトヨタ自動車が、人を助ける「パートナーロボット」のひとつとして発表したものです。トヨタは、ロボットを2010年代の前半に実用化すると、宣言したのです(ビジネスアイ12/7)。計画によれば開発分野は、家事、介護・医療、近距離移動、製造の4つ。開発スタッフも現在の100人から2年間で2倍に増やし、ロボットを将来の中核事業にするというのです。恐るべきトヨタです。アイボのソニーも、アシモのホンダも、かすんでしまいそうです。自動車で世界一、なかでもハイブリット車は独走状態、コンピュータのソフト開発でも1万人以上のソフト開発者をかかえ世界有数、そしてロボットでも世界のトップに立とうとしているのです。
○国際ロボット展。
バイオリンを弾くロボットが登場する1週間前、東京ビッグサイトで、「2007国際ロボット展」(11/28~12/1)が開かれました。出展していたのは、265の企業・機関・団体。会場の全体は、産業用ロボットとサービスロボットのふたつのゾーンに分かれていました。産業用は、溶接、組み立て、運搬など単純作業を早く正確に繰り返す作業をするロボットです。ふだん見ることがないようなものばかりですが、その細かい動きと、スピードに驚きます。サービスロボットの主役は人間の格好をしたロボット。話題は、発売されたばかりのタカラトミーの「アイソボット(i-SOBOT)」。165mm、体重350g、アイソボットは、世界でもっとも小さい量産されている人型2足歩行ロボットとしてギネスに認定されたのです。前進・後退の歩行アクションはもちろん、パンチ・キック・ガードの格闘アクション、フラダンス・エアギター・動物のモノマネのパフォーマンス系アクションをし、簡単な会話をすることもできます。ヒューマノイドロボット(人造人間)はこのほかに数種類、会場狭しと歩き回っていました。タカラトミーは、チョロQに換わって、赤外線コントロールヘリコプター「ヘリQ」も売り出していました。極め付きは、人間型ロボットハンドです。人間の手と同じように握手したり、ジャンケンしたりできるのです。
ここまで見てくると、立ち止って考え込んでしまいます。2足歩行のロボットでどこの家にでも侵入できるようになる・・・。ヘリコプターで隣家の偵察も可能になる・・・。ロボットの手は人間と同じように作業ができる。バイオリンの代わりにライフル銃を、ロボットが持ったらどうなるのか・・・。
○ロボット工学3原則。
1940年代にSF作家のアイザック・アシモフは現在の危機を予測し、「ロボット工学3原則」を発表しています。1)ロボットは人間に危害を加えてはならない。2)ロボットは人間の命令に服従しなければならない(ただし1条に違反してはならない。つまり人間を攻撃する命令には従わない)。3)ロボットは自己を守らなくてはならない(ただし第1条と第2条に違反しない。つまり人間を攻撃したり、人間の命令に違反しない限り)。アシモフの3原則は、60年以上、だれかが改善しなければならないのに、夢のスローガンとして語り継がれてきました。それが、今年の国際ロボット展の1週間前に、進化したのです。千葉大がやりました。「千葉大ロボット憲章」(07,11/21制定)です。千葉大は、アシモフのロボット工学3原則に、ふたつのことを付け加えました。1)平和目的の民生用ロボットに関する教育・研究開発のみを行う。2)非倫理的・非合法的な利用を防止する技術をロボットに組み込む。ロボット研究のトップランナーのひとり、千葉大はロボット研究の危機を予感したのです。キリスト教は、人造人間を、神への挑戦、冒涜(ぼうとく)と考えます。ですから、米国とヨーロッパのロボット研究は遅れます。私たちの責任は重大です。ロボット技術の「進化」だけでなく、ロボット思想の「深化」にも、努力しなければならないのです。「綾波レイ」を深く愛するためにも・・・。