コンテンツ・ビジネス塾「西垣通」(2008-11) 3/18塾長・大沢達男
1)1週間分の日経、ビジネスアイとFTが、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、ウェブ2.0批判。
インターネット理論で日本を代表する論客のひとりである西垣通教授(東京大学、専門は情報学・メディア論)が、ウェブ2.0に根本的な疑問を投げかけています。今週は「ウェブ社会をどう生きるか」(西垣通 岩波新書)を読みながら西垣理論を検討します。
1)ウェブ2.0の本質は、米国企業の権力闘争。
PC(パーソナルコンピュータ)は、民衆のためのコンピュータとして開発されたが、結論は一部の米国企業に途方もない利益をもたらしただけである。PCでIBMに代わってマイクロソフトが、ウェブ2.0では、グーグルが勝ったのだ。
2)ウェブ2.0は、一神教(ユダヤ=キリスト教)。
神の言葉はロゴス(論理)で、普遍真理となってスコラ哲学、近代科学そしてコンピュータを発明し成功させている。いうなればウェブ2.0は、世界に福音をもたらす道具として構想されている。
3)ウェブ2.0は、エリートだけのもの。
グーグルのペイジとブリンはスタンフォード大学大学院計算機科科学科出身。ウェブ礼賛論者は、中高年を排除し、若者たちを煽りたて、アメリカ流の格差社会を日本に持ち込もうとしている。
教授は、自分自身はアメリカ嫌いではないと言いますが、ウェブ2.0否定は、アメリカ精神否定、キリスト教否定、資本主義否定の厳しいものになっています。
2、生命的な情報組織。
「ウェブ時代をどう生きるか」は、07年5月。最新の西垣理論の要旨が、日経紙上で公開されました。「生命的な情報組織。やさしい経済学ー21世紀と文明」(日経3/5~3/13)です。
1)生命情報。
生命情報とは人が生きていくための情報です。すべての情報を含むいちばん大きな概念です。つぎに社会情報があります。代表は言葉です。人間の社会で通用する情報です。社会情報は生命情報の一部です。そして、機械情報があります。代表は文字です。機械情報も社会情報の一部です。問題はウェブ社会の人間が、機械情報の氾濫で、足を引っぱられ、思考の柔軟性を失うことになってしまっていることです。
2)ウェブ上の人格。
米国では実名、日本ではハンドルネーム。この差についての西垣教授の提案は刺激的です。日本には女のふりをして日記を書いた紀貫之「土佐日記」の伝統がある。ネカマ(ネットオカマ)でオーケーだと言うのです。なにが目的か。個人を絶対視する価値観の否定です。
3)150人の小規模共同体。
霊長類の大脳新皮質のサイズと、群れのサイズとのあいだには相関関係があります。ヒトの場合は、150人が適性サイズ。つまり私たちは、100名程度の共同体をつくり生きていく動物なのです。
西垣理論は、梅田さんのシリコンバレーに真っ向から対立します。
3、不良の思想。
西垣教授のウェブ2.0批判をどう考えればいいでしょうか。まず梅田批判は疑問です。梅田はシリコンバレーに移住しそこで働き生活した印象を日本にレポートしているだけです。ではアメリカ、一神教、資本主義批判はどうでしょうか。まずPCは、ジョブスたちアメリカ人が作ったもの。気に入らないなら他のものを提案すればいいのです。所詮コンピュータは計算機。人工知能だとだれかが主張しているのでしょうか。つぎに一神教批判は、まったく不毛です。文字と一神教は不可分です。ともに5,000年の歴史です。中国にはそれに先駆ける長江文明が、日本には縄文文明があります。藤原正彦教授のように一神教を批判して武士道を説くのですか。ナンセンスです。さらに資本主義は変わります。基軸通貨は、ドルからユーロにさらに人民元に変わります。さらに大脳新皮質のアーキテクチャーに関する議論も疑問です。不良の思想、セックス・ドラック・ロックンロールのほうがステキです。つまり、エロスとロゴスとパトスを、脳幹と新皮質と大脳周縁系を解放するのです。