金が金を生む、うまい話はない。

コンテンツ・ビジネス塾「金融工学」(2009-15) 5/5塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、株式投資の必勝法。
株式投資の神様・バフェットを、金融工学の立場から、野口悠紀雄早大教授が解説しています。
1)バフェットの株式投資の極意は、いい銘柄を見つけて、いいタイミングで買い、いい会社である限りそれを持ち続けることだ、と言う。しかしこれは、いいものはいいと言っているに過ぎない。
2)バフェットに学ぶ株式投資法。このたぐいの本は山ほど出版されているが、バフェットの方法を学んで成功した、という人の話を聞いたことがない。
3)そもそも投資で成功した人間が必勝法を明かすだろうか。他人にマネされて、自分の取り分は少なくなる。株で儲ける方法があったしても、知っている人は絶対に教えない。
4)彼の成功に関しては、もうひとつの考え方ができる。偶然である。必勝法など世の中に存在しない。幸運にも勝ち続けたのである。
2、金融工学
金が金を生むことを教えた金融工学が、リーマン・ショックに始まる今回の金融危機の犯人だ、とする説に野口教授は反対します。チェルノブイリ原発事故の原因が核物理学でないように、世界不況の原因も金融工学ではないのです。
1)金融工学は資金運用の必勝法を教える学問ではありません。私たちの生活を豊かで安全にするものです。危機は金融工学の悪用で起きています。
2)エンロン事件(2001年米国)のような経営破綻は、金融工学が原因ではなく、金融工学のエセ専門家にだまされて起きた事件です。
3)金融工学は高等数学を使います。たとえばデリバティブ金融派生商品)の価格づけに使われる、「ブラック・ショールズ方程式」は偏微分方程式で、これを理解できる投資家は数多くいません。
4)金融工学は「社会科学の女王」です。精緻な理論体系を持っています。しかも用語が専門的です。だまし、だまされやすい、のです。
3、うまい話はない。
資産を安全に運用するとは、リスクを分散させることです。うまいことをやって、大金儲けをしようというのではありません。つまり金融工学は、「錬金術」ではない 、科学です。
1)金融工学の中心思想は、「分散投資」です。そのために株式投資以外の、デリバティブが生み出されました。分散投資の複雑な計算は、IT時代を迎えて初めて可能になりました。
2)分散投資により得られる資産を「ポートフォリオ」(有価証券一覧表)といいます。マコービッツ・トービンによって確立されたポートフォリオ理論によって、期待収益率を減少させずにリスクを低下させることができるようになりました。
3)たとえば日本にはGDPの515兆円を上回る対外資産残高が610兆円あります。分散投資ポートフォリオ理論で運用収益率を1%上げれば、1%の経済成長が達成できる。しかし日本はアメリカ政府国債などの愚かな集中投資をしている。日本の資産運用は石器時代のまま、野口教授はこう指摘します(『金融危機の本質は何か』野口悠紀雄 東洋経済新報社)、『アメリカの高校生が読んでいる金融の教科書』山岡道男 浅野忠克 アスペクト))。
しかし、歴史は皮肉です。「ブラック・ショールズ方程式」でノーベル経済学賞を受けた、ショールズとその弟子マートンは、90年代に大型ヘッジファンドLTCMで、17兆円に近い巨額損失を出しています。つまり金融工学のプロ中のプロが大失敗をしているのです。
近くは、高校生に大人気のイタリアンレストラン「サイゼリア」の失敗があります。デリバティブで140億円の損失を出すのです(2008.11発表)。金融工学は活用されていたのでしょうか。
結論。株式投資の神様・バフェットが学生の前で、投資の秘密について話しました(『バフェット&ゲイツ 後輩と語る』センゲージ ランゲージ株式会社)。
「二点アドバイスしましょう。私は、自分にできるだけ投資してきました。いいですか。自分こそが最大の財産なんです。そしてもうひとつは、なんでもいいから夢中になれるものをさがしてください」。