ビジネスでもアートでも、役に立たない民主主義。

コンテンツ・ビジネス塾「民主主義」(2009-30) 8/25 塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)あすの仕事につながるヒントがあります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、選挙制度(注:本稿は8/30の衆院選の前に書いたものです)
自由民主党にも民主党にも、民主主義の「民主」の字が入っています。「民主」とは「君主」ではないことです。王様や独裁者の一人の意思で国のあれこれを決めるのではなく、国民のみんなの意見で社会の未来を決めていく政治のしくみです。民主主義は現代社会が掲げる理想で、国際社会でも通用する人類の共通の理念になっています。しかし民主主義はいつの時代も変わらぬ「真理」でも、あらゆることに通用する「原理」でもありません。まず、民主主義を実現するための選挙制度がありますが、現在の選挙制度は本当に民主主義を実現しているかの問題があります。さらに、民主主義は300年前から流行している政治制度であることを知っているべきです。
2、子どもと若者の声
日本の衆議院選挙は、「小選挙区比例代表並立制」で行われています。候補者名を書く小選挙区が各選挙区1人で全国300人、政党名を書く比例代表は全国11ブロック180人で、計480人が選出されます。小選挙区は二大政党化を加速させるといわれています。比例代表区には、落選した人の「死票」を生かし、小政党が議席を獲得できる長所があります(日経 8/23)。
1)現行の選挙制度は、高齢者有利ではないか。
09年のデータによれば55歳以上の人口は全人口の37%ですが、全有権者の45%をしめます。一方20歳未満の人口は全人口の18%ですが、選挙権がないために有権者は0%です。つまり日本の未来は高齢者の意見で決まっています。
問題解決のための投票法があります(「デーメニ投票法」米国の人口学者ピーター・デーメニの提案)。これは子どもが2人いる親は、自分の1票と子どもの2票、計3票を投票できるというものです(もちろん母親と父親がいれば1票は0.5票になりますが)。この方法での選挙と現在の選挙制度でのそれを比べると、55歳以上の有権者は35%に減少し、親+子どもは37%に増加し、高齢者と若者世代のバランスがとれるようになります。デーメニ投票法は、ドイツ、シンガポールニュージーランドなどで検討されていますが、実現までに至っていません(『高齢化での選挙制度青木玲子 一橋大学教授 日経8/20)。単なる民主主義ではうまく行かないのです。社会は、子どもや若者に「ひいき」しなければいけないのです。
2)ネットが使えないのは、若者を無視していないか。
日経に衝撃的な全面広告が掲載されました(日経 7/15)。「衆議院議員をめざしている人が、本当のところどう思っているのか、きいてみよう」。Google+YouYube。グーグル株式会社の広告です。
キャッチコピーは青と赤と黄色と緑、おなじみのグーグルカラーです。候補者(予定)とインターネットで話そう。それが広告の趣旨です。すばらしい。しかしこれは選挙違反になります。広告は選挙が公示される前の呼びかけでした。
日本では米国や韓国のように、インターネットを選挙で使えません。選挙管理委員会が認めるのはハガキとビラだけです。オバマ大統領はネットで若い有権者の支持を集めました。ところが日本では世界最先端といわれるネット・インフラを使うことができません。選挙戦に突入すると、候補者はウェブサイトの更新をストップさせなければいけないのです(日経社説 8/23)。
3、リーダーシップ
民主主義の危険は、衆愚政治(しゅうぐ)になることです。衆愚とは、多くの愚かな者。有権者が理性的な判断をせずに、怒り、憎しみで、間違えた判断をしてしまうことです。民主政治は堕落する危険性が絶えずあります。ギリシャの哲学者は、少数のエリートによる哲人政治を理想にしました。
私たちは民主主義と多数決の教育で育ってきました。しかし民主主義は万能ではありません。ビジネスやアートの世界での民主主義はまったくの無力です。結果を出しているのは、独裁者や哲人の強いリーダーシップです。わが社の進むべき道は、右か左か。次の映画の主役は、後藤か松浦か。多数決で決めます。そんなことをしたら、会社も映画も、間違いなくつぶれます。