コンテンツ・ビジネス塾「FREE(無料)」(2010-11) 3/26塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、フリー(無料)。
わからないことがあったら検索サービスを使います。本を買うお金も、図書館に行く交通費も要りません。だれもがフリー(無料)で新しい情報を仕入れることができます。
いまの学生たちは新聞を読みません。かといって世間の動きに無関心なわけでもありません。ネットを使いフリー(無料)でニュースを知っているからです。
『FREE(フリー<無料>からお金を生み出す新戦略)』(クリス・アンダーソン 小林弘人監修解説 高橋則明訳 NHK出版)が話題になっています。フリーのビジネスモデルは4つあります。
1)直接的内部相互補助
1901年ジレットはT字形安全カミソリを開発し、おまけとして無料でバラマキました。安全カミソリは普及し、替え刃を継続して買ってもらうことでジレットは富を築きました。
2)三者間市場
テレビ・ラジオの番組は無料で視聴できますが、放送局は広告収入に依存しています。
3)フリーミアム
プレミアム版の5%の有料ユーザーが、無料ユーザーの使用料をカバーしています。
4)非貨幣市場
アマゾンのブックレビューやウィキペディアは無償(フリー)の労働によって支えられています。
著者のクリスは、デジタルのものは遅かれ早かれ無料になる。そして30歳以下のフリー世代はフリーをあたりまえと考え、著作権には無関心であると解説します(『週刊ダイアモンド』3/13)。
2、ネット帝国主義。
ネットでは無料(フリー)が当たり前に、新聞王のルパート・マードックが異議を申し立てました。
「ネット上での無料コンテンツが新聞のビジネスモデルを破壊している。無料コンテンツから儲けているのは検索サービスだけだ」(『ネット帝国主義と日本の敗北』岸博幸 幻冬社新書 P.138)。
米国では地方の主要新聞11社が倒産しています。やがて日本でも現実になります。
岸慶応大学大学院教授は、フリーのビジネスモデルで勝っているのはグーグルだけだと指摘し、ネットのフリーは社会問題をひきおこしていると警告します。
1)コンテンツを生み出した新聞社は経営危機に見舞われている。米国のネットで流通する音楽の95%は違法ダウンロード。コンテンツ企業は儲からない。アーティストは生活できない。民主主義を支えるジャーナリズムと価値観を形成する文化は衰退している。
2)パソコン、OSは米国製、そして検索サイトのヤフー、グーグルも米国製、さらにアマゾン、ウィキペディア、SNSツィッターも米国製。ネット帝国主義・米国による世界制覇が成し遂げられている。
まず情報支配。9.11テロのとき制定された「米国愛国者法」では、政府は電子メールを傍受でき、FBIはサービスプロバイダーの個人情報の提出を求めることができる。つぎにソフトパワーによる米国の強化。検索サービスは米国政府、米国企業に有利になるように設定できる。そして広告とビジネスでの米国の一人勝ち。米国以外の国のジャーナリズムと文化は衰退する。
3、情報社会。
これまでネットの問題は、『FREE』やシリコンバレーよりの村井純、梅田望夫によって、ユートピア的に語られてきました。シリコンバレーに反旗をひるがえす岸博幸の登場は新鮮です。
たとえば村井は新著『インターネット新世代』(岩波新書)のなかで、9.11事件について触れ、「合法的に電子メールをみる・・・どういう権限でだれが行使していいのでしょうか」(同書P.178)と権力の暴走を心配しています。しかし米当局の「米国愛国者法」でネットに自由がないことが、前述の岸の解説でわかります。また梅田はネット社会を「総表現社会」と、ことあるごとにバラ色に主張しますが、岸によれば「素人による市民ジャーナリズムやデジタルとネットですべての人がクリエーターになれるというだけでは、ジャーナリズムや文化は救われません」(前掲書P.25)と総表現社会をまるで相手にしていません。村井、梅田と岸が対決する「情報社会論」が楽しみになります。