サムライじゃない、商人(あきんど)です。

コンテンツ・ビジネス塾「商人道」(2010-26) 7/13塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、長寿命企業
「帳場(ちょうば=会計場)と算盤(そろばん)は嫌悪される」「商業は江戸時代の士農工商のいちばん下で軽蔑されていた」『武士道』(新渡戸稲造 岩波文庫)はこう書きます。その影響でしょうか。私たちはサムライでないにもかかわらず商売や金儲けを甘く見て、あげくの果ては成功者を米国崇拝の「市場原理主義者」といって攻撃します。商いは卑しいか。ビジネスは人生を賭けるに値しないものでしょうか。まず質問します。「社歴が200年以上ある企業数が多いのはどこの国ですか?」答えは、「日本」です。しかも圧倒的です。日本には、社歴200年以上の企業が、3000社以上あります。中国は9社、インドが3社、ドイツでさえ800社(『江戸商人の思想』平田雅彦 日経B社)。米国は?残念ながら米国は国ができてから234年しか経っていません。企業どころではありません。
日本には武士道ではなく、世界に問うべき「商人道」があります。
2、住友、三井、三菱
日本の三大財閥グループから商人道を学びます。引用は平田雅彦の前掲書から。短くするために、引用者の大沢が編集しました。正確には原著を参照してください。
1)住友
住友の家祖は住友政友(1585~1652)。その精神は「文殊院旨意書(もんじゅいんしいがき)」や「住友家総手代勤方心得(そうてだいつとめかたこころえ)」(1721年)となって残されています。
○相場より安いものを持ってきた時は、買ってはならない。盗品だと心得ておくこと。
○人がどのようなことをいってきても、短気をおこし、荒々しい言葉を使ってはいけない。
○手代(番頭と丁稚の間)が病気になったときには、各人がよく気をつけて看病してやること。病人を粗末に扱うようなことがあれば、その者は主人に不忠を働いた者とみなす。
2)三井
三井家の元祖、三井高利(1622~1692)は、開店したばかりの越後屋三越)を10年後に火事で焼失、「現金、廉価、掛け値なし」の新店舗で江戸の話題を独占しました。高利の精神は『宋竺遺書(そうちくいしょ)』(1722)として1900年まで三井家の憲法になりました。
○相手の心を汲んだ上で自分が何をすべきかを考える。自分中心では、家内でも不和がおきる。
○手代(中間管理職)は、使用人に対して愛情を持って接し、私心なく、すぐれた人をとりあげ、悪い者を辞めさせ、上下心を合わせれば、仕事でできないことはない。
○一日も仁義を離れて人道はない。しかし算盤をはじかずに、慈悲に走りすぎるのもまた愚か。
3)三菱
三菱グループの創業は1870年(明治3)、岩崎弥太郎の九十九商会(つくも)に始まります。三菱の精神は、四代目社長岩崎小弥太によってまとめられます。
○競争は必要だが、数字上の成績をあげるために手段方法を選ばなくなるのは、危険である。
○もし人、不正をもって争わば、われは正義をもって戦うべきである。もし人、権謀をもって我に対すれば、われは正直を以て迎うべきである。人、請託を以て地歩を得んとすれせば、われは勉強と親切とをもって対抗すべきである。
○われわれの職業の第一義は、最も便利に最も廉価に商品の分配をはかり社会国家に尽くすこと。そして利益を得ることが第二義。しかし第一義を犠牲にすることは断じて許されない。
3、武士道と商人道
義、勇、仁、礼、誠、忠、切腹、仇討を説く武士道は、身内と鎖国の論理です。それに対して公正、誠実、親切、顧客満足、社会的貢献を説く商人道は、世間と開国の論理です。「買い手よし、売り手よし、世間よし」の近江商人の言葉こそが、商人道の象徴であり、商人道の本質です。
江戸時代にベストセラーを連発した長崎の商人、西川如見(1648~1724)は、「主人に恐れ仕えて命を露ちりとも思わぬ武家に生まれたものはかわいそうだ、町人の生活ほど楽しいものはない」(前掲書)と、記しました。「商人道」こそ日本が世界に誇るべき、経営の哲学ではないでしょうか。