クリエーティブ・ビジネス塾8「商人」(2015.2.18)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、黒田博樹
質問です。「月給200万円でニューヨーク勤務、月給20万円で広島勤務、仕事の内容は同じ。ニューヨークか広島か、あなたはどちらを選びますか?」
だれもがニューヨーク勤務を選ぶと思います。ところが広島勤務の選択をして、日本中の拍手を浴びている人がいます。プロ野球広島カープの黒田博樹投手(40)です。話を分かりやすくするために金額を身近な額に変えました。実際の金額はニューヨーク・ヤンキースの年俸20億円に対して、広島カープの年俸4億円です(ともに推定金額)。なんとその差額は16億円。想像もつかない金額です。なんてバカな・・・。
黒田投手は、広島選択の理由として1)8年前に広島を離れる時のファンの拍手に心を動かされた。今度はファンの心を動かしたい。2)ことしは40歳。野球生活の最後を日本の広島に捧げたい。3)年俸の差を前に決断は難しかったが、前のふたつの夢を実現したかった(2/17サンスポからの要約)。
黒田投手の復帰は、「最後の一球カープで」と、大きな見出しで日本経済新聞も報道しました(2/17)。
プロ野球選手は個人事業主です。さきほどバカな選択と、軽はずみに言ってしまいましたが、ファンも喜び、球団も喜び、社会も歓迎しているのを見ると、賢い選択と訂正しなければなりません。
2、商人道
1)三方よし・・・「三方よし」とは、日本のさまざまな企業の基礎を築いた近江商人の教えです。たとえば日本を代表する商社の伊藤忠は企業広告で、「三方よし」をテーマに取り上げました。「三方よし」とは、買い手よし、売り手よし、世間よし。顧客満足、商売繁盛、そして社会繁栄を同時に実現せよの教えです。
日本では商売は悪、金儲けは悪の風潮があります。それは江戸時代からの士農工商。商人をいちばん低く見る風潮の名残です。それは明治時代になっても変わりませんでした。役人、軍人、学者が偉く、ビジネスをするものは卑しいと見なされていました。そしてそれはいまでも企業人を甘く見る新聞の論調として残っています。反発しましょう。「三方よし」を日本人の精神です。黒田投手の決断はまさしく「三方よし」です。
2)仁義・・・日本の実業界の父渋沢栄一(1849~1931)を覚えてください。日本銀行、JR、サッポロビール、新日本製鉄、東京ガス、帝国ホテル、日本経済新聞、NHK、聖路加国際病院・・・600に近い日本の会社の基礎を作った人です。渋沢はまず経済活動は「仁義道徳」に基づかなければ長続きしない、と説きました。「仁義道徳」とは優しくと正しいことです。次に論語と算盤(ろんごとそろばん)は一致する。つまり道徳がなければ経済は成り立たないと言いました。そして武士道は実業道である。つまり義、勇、仁、礼、誠、忠は、商売でも必要だと言いました。渋沢栄一は世界に誇る日本の財産です。20世紀を代表するアメリカの経営学者ピーター・ドラッカーが、渋沢栄一をマネジメント(経営)の世界最初の理解者であった、と評価しました。黒田投手の決断は「仁義と礼節」に溢れています。
3)志(こころざし)・・・志とは、夢、野心、目標と言い換えてもいい。あなたの身近に大きな志の人がいます。ユニクロの柳井正社長です。ユニクロの志を知っていますか。「服を変え、常識を変え、世界を変えてゆく」。ユニクロは世界を変えようとしています。「生きるとは一生かけて自分を発見すること」、「情熱で自己を革新する」、かつてユニクロは求人広告でこう語りかけました。そして「服のチカラ」を主張しました。まずネパールの難民キャンプから、ユニクロのリサイクルの服を着た女性が仕事の地へ旅立っている。つぎに、貧困のバングラディッシュで1ドル以下で買えるTシャツをつくることに成功した。そしてユニクロの9割以上の店で、障がい者雇用で断然トップの人数の、障がい者が働いている。服は人を幸せにするチカラがある。黒田投手はファンを幸せにする「志」を持った人です。
3、ジャパニーズ
日本には200年以上の歴史を持つ会社が、3000社以上ある。これはとんでもない数字です。中国は9社、インドが3社、ドイツでさ800社。米国は残念ながら国ができてから200年を過ぎたばかり。日本はビジネス、仕事、商売の本場です。
「ニューヨークのファンには申し訳ないが、ぼくはクロダの決断を支持する。君たちアメリカンには分からないだろうけど、クロダの価値観には「三方よし」のジャパニーズ・ビジネスパースンの伝統的なルールがあるんだ。ぼくはそのことを日本人として誇りにしている。そしてそれを君にも主張したい」