ドラッカー、それは感動の理論です。

コンテンツ・ビジネス塾「ドラッカーその1」(2010-31) 8/25塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、ドラッカー
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(岩崎夏海 ダイヤモンド社)の舞台はある都立高校。高2の夏に野球部のマネージャーになった女子高生(JK)がある目標を思いつきます。それは高校野球の全国一を決める夏の甲子園に出場することです。しかしその目標はその高校の野球部にとっては、はるか彼方の夢でしかありませんでした。
1)野球部の名簿には23名の部員がいることになっていますが、練習にくるのは5人、やる気がありません。2)さらに悪いことに、監督とエースのピッチャーは口もきかないような最悪の人間関係。チームはバラバラです。3)都立高校ですから目標は東西の東京代表。所属は西東京代表枠、従って甲子園優勝経験のある早実桜美林、日大3高などの強豪に勝たなくてはなりません。
やる気を起こし、チームワークをよくし、勝つために、何をすべきか。JKマネージャーは経営学の始祖といわれるドラッカー(1909~2005)の著作『マネジメント』(ピーター・F・ドラッカー 上田敦生訳 ダイヤモンド社)を読みその力を借りて、問題点をクリアし、甲子園出場への突撃を開始します。
2、マネージャー
1)マネージャー(マネジメント)・・・JKマネージャーが最初にぶつかるのは、マネージャーという言葉。ManagerはManagementする人です。マネジメントとは、管理、経営。マネージャーとは支配人、経営者、監督。私たちはマネージャーというと、野球部の雑用係というイメージを持ちますが、英語のマネージャーは、基本、経営者のことです。経営者の資質とは何か。人を管理する能力は学ぶことができるが、マネージャーには、根本的な資質が必要。それは真摯(しんし=まじめでひたむきなさま)さである(前掲書 P.19)。この言葉に、JKマネージャーは驚き、身を引き締めます。
2)野球部・・・次はそもそも野球部とは?その目的と使命は何かです。ドラッカーは企業(野球部という組織)とは何かについて、「顧客の創造」と答えます。つまり野球部もお客さんを作る必要があるのです。顧客とは、観客、学校関係者、東京都民、さらにはすべての野球ファンです。そして「野球部とは顧客に感動を与えるための組織」と定義づけるのです(P.57)
3)人が資産・・・マネージャーの役割は、人の強みを発揮させることです。組織の目的は、人の強みを生産(勝利)に結びつけ、人の弱みを中和するところにあります。組織は、モノでもカネでもありません。ヒトという部員こそが野球部という組織の最大の資産です(P.121)。
4)マーケティング・・・組織(野球部)の機能に、マーケティングがあります。どういう野球をするかです。JKマネージャーは、部員一人一人が野球に何を期待し、何をやりたいかを、調査します。足が速いだけ、飛び抜けた能力、練習について要望、監督への不満・・・。そして新しい練習方法が開発され、部員がやりがいを感じ、自分の活動に責任を持つようになります(P.173)。
5)イノベーション・・・組織(野球部)の機能のもうひとつが、イノベーションです。野球部は変わります。高校野球を変えます。ノーバント、ノーボール作戦という画期的な戦法を開発します(P.150)。
6)社会貢献・・・野球部は学校全体を変えます。陸上部、柔道部、吹奏楽部、家庭科部、全校を巻き込んでいきます。それだけではありません。近所の大学との交流をし、地域の少年野球リーグに野球教室を開くようになり、社会を変えていきます(P.173,P.191)。
3、涙と涙
主人公のJKマネージャーをはじめとする登場人物が、妙に個性的で生き生きしています。それもそのはず、登場人物のモデルは、人気絶頂のアイドルグループ「AKB48」のメンバーです。
マネジメントの問題とは、とどのつまり人間どう生きるかの問題です。クラブ活動を中心にした高校生活を、だれもが自分の問題として考え、答えを出すことを要求されます。そこがドラッカー理論が並の経営学理論とは違うところです。プロット(話しの筋)を明かすことはできませんが、涙もたっぷり約束されます。マネジメントで理知のすべてを使いながらも、なおかつ友を思うあまり、押し寄せる感情の渦に巻き込まれ、青春は儚し切なしそして美し、涙に翻弄(ほんろう)される物語です。