今年最高の本。たけしの『1084』を読みましたか。

コンテンツ・ビジネス塾「ビートたけし」(2010-35) 9/28塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、『1084
今年最高の本として、『1084』(ビートたけし 株式会社ネコ・パブリッシング)が売れています。みなさんご注意ください。『1084』は村上春樹のベストセラー小説『1Q84』の装丁にそっくりで、「4」の文字が強調され、あたかもBOOK4(第4巻)の登場を思わせます。表紙の帯部分には「類似品にご注意ください」と書いてあります。でもこの『1084』は、「トーさんヤーヨ」と読み、中味はビートたけしの漫才本。全321ページすべてがたけしときよしの漫才で構成されています。
1)覚せい剤・・・酒井法子押尾学をあちこちで笑い飛ばしています。覚せい剤をテーマにしたたけしのVシネマ企画は、『崖の下のシャブ』、『シャブの宅急便』、『酒井法子のシャブ隠し』です。
2)オカマ・・・たけしはオカマネタが好きです。そこで大胆なオリンピックの開会式の提案をしています。それは、AV男優、加藤鷹チョコボール向井、小倉アイス、志良玉弾吾、そして、はるな愛カルーセル麻紀、IKKOが踊るという凄まじいものです。
3)民主党政権・・・民主党政権は、『TVタックル』で民主党の若手に自民党に文句を言わせたことから誕生した、とたけしは主張します。格差をなくす民主党政権下では、国立ソープランド、国立ホストクラブ、国立蟹道楽、国立大麻ヒロポン館が誕生すると予言します。
2、『アウトレイジ』(暴力)
北野武監督の最新作『アウトレイジ』(2010年6月公開)は、カンヌ国際映画祭に正式参加したものの上映会場でブーイングを浴びた愚作(駄作ではない)です。
1)権力
暴力団大友組組長(ビートたけし)と取り締まるマル棒刑事片岡(小日向文世)の関係は、大学のボクシング部の先輩後輩という設定です。暴力団が暴力なら、警察も暴力、同じ世界の住人です。
2)経済ヤクザ
映画には日本を代表するハンサムが登場します。若頭に三浦友和、武闘派の椎名桔平、そして経済ヤクザの加瀬亮。なかでも加瀬はヤクザらしからぬヤクザとして光っています
3)下克上
アウトレイジは恐ろしい映画です。権力の権威を一切認めない。肩に力が入るほど、緊張の連続を強いられます。なぜそこまで北野監督は反抗するのでしょうか。北野映画ニヒリズム虚無主義)、アナーキズム無政府主義)が支配する、タナトス(死への本能)の映画です。
3、新宿VS浅草
1)浅草のたけし
25歳のたけしは、ストリップ劇場浅草フランス座のエレベーターボーイになります。それからお笑いの修行を始めます。たけし漫才は、古典落語のように芸で語るものではありません。毒舌と下ネタと放送禁止用語で時代の先端のすべてを笑い飛ばす、これが浅草で築いた漫才の手法です。28歳でテレビ初出演、そして31歳で空前の漫才ブームが到来します。
2)新宿のたけし
18歳から24歳まで、浅草以前のたけしは新宿を放浪しています。明治大学工学部に入学したものの、通学途中の新宿で下車していました。60年代後半から70年代にかけての新宿は思想と芸術と暴力の街でした。ジャズ喫茶では哲学の本が読まれ、街には自作の小説や詩を売る芸術家に溢れ、夜には機動隊と学生の衝突の暴力ショーがありました。
3)世界のたけし
「一緒に飲みに行ってあの人の部屋に帰るでしょ。全部吐いちゃうんですよ」(『北野武』p.125 オフィス北野代表森昌行の発言 キネマ旬報増刊)。たけしはそれからネタ帳作りを始めています。
『1084』は浅草のたけしの最新版です。『アウトレイジ』は新宿のたけしの到達点です。コメディアンの顔をした思想家であり、芸人にして芸術家のたけしは、深夜のネタ帳づくりでさらに世界のたけしへと進化しています。問題は世界のたけしがいつまでおネエちゃんと遊んでいられるかです。