クリエーティブ・ビジネス塾5「大島渚」(2013.1.22)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、大島渚
映画監督大島渚が、1月15日に80歳で亡くなりました。日本には黒澤明、小津安二郎、溝口健二など、世界に知られた映画監督がいますが、大島渚ほどスキャンダラスな話題を提供し、若者たちに影響を与え、時代のヒーローになった監督はいませんでした。
まず大島は、映画で思想と哲学を語り、既成の価値観、権力への挑戦をしました。『青春残酷物語』のヒットで松竹のエースになっていたのにも拘らず、『日本の夜と霧』という延々と討論を繰り返す政治映画を作り、会社を飛び出します。政治権力への反抗だけなく、松竹、東映、大映、東宝、新東宝、大手五社の映画体制への反乱を起こしました。
つぎに大島は性愛と暴力を描きました。ハードコア・ポルノ『愛のコリーダ』でカンヌ映画祭を騒然とさせ世界を驚かせ、日本では芸術かわいせつかで裁判で10年以上話題になりました。『絞首刑』では首つりのシーンをしつこく描き、人を殺す国家を告発しました。
そして大島はたぐいまれな直感と感覚の人でした。『戦場のメリークリスマス』でそれまで映画に全く関係のなかったビートたけし(北野武)と坂本龍一を出演させます。北野はこれをきっかけに世界を代表する映画監督になります。坂本は出演だけでなく映画音楽も初めて担当します。大島映画はファッション、ヘアスタイル、そして美術でも時代のトップランナーでした。
しかし大島は1996年に脳梗塞で倒れ、その後『御法度』を車イスから作りますが、あとは闘病生活を続けていました。残念ですが、ヒーロー大島渚はとっくに終わっていました。
2、山田洋次
大島渚の死を見届けてから、1月19日に上映が始まった映画があります。山田洋次監督の『東京家族』です。大島渚vs山田洋次。だれもこんな議論をしてきませんでしたが、いま思うのはふたりの映画監督を比べたときの、人生の不思議です。
ふたりは同期で54年松竹に入社します。大島は京都大学法学部出身、山田は東京大法学部出身。山田は補欠入社でした。大島は『愛と希望の街』(59)で華々しく監督デビュー。山田は2年遅れに『二階の他人』(61)で大して注目もされず監督デビュー。新左翼全盛の時代に、共産党シンパだった山田は評論家から総スカン、見捨てられていました。大島は61年に松竹退社、創造社を立ち上げ、『忍者武芸帳』(67)、『日本春歌考』(67)などの問題作を世に送り時代の寵児になります。山田は松竹で会社の方針通り、お笑い映画をとっていました。後の話題作『男はつらい』(寅さんシリーズ)は69年スタート。でも松竹の試写室には誰もいなかった。山田に注目する人はいませんでした。山田の大ヒット作『たそがれ青兵衛』(02)、『武士の一分』(06)そして『東京家族』(13)は、平成も最近の話題です。
松竹に補欠で入った山田は、ヒーロー大島渚に陰で全く注目されていませんでした。むしろ山田は否定されていました。それがいまでは、大島は死に、山田は新作の発表。歴史は皮肉です。
3、不老不死
山田洋次監督の『東京家族』は、傑作です。妻夫木聡と蒼井優が好演しています。ただし若い人への注意があります。これは小津安二郎監督の『東京物語』を見てから見る映画です。お忘れなく。蒼井優もいいですが、原節子という不滅の女優に出会えます。
大島渚vs山田洋次。大島は死去してからフランス芸術文化勲章受賞(01)、かたや山田は文化勲章受賞(12)。しかも現役の映画監督。大島の負けですが、山田の映画には権力を挑発する勇ましい言葉、エロスそして破壊(タナトス)もありません。平凡な人々の日常と幸福があるだけです。
大島渚か山田洋次か。まだ結論を出すには早いのですが、歴史は偉大な映画監督として、どちらを選ぶのでしょうか。不老不死の伝説として残るのは、どちらでしょうか。
大島は同時代の人と後輩に大きな影響を与えました。総括的に言えば大島渚なくして、北野武も坂本龍一も現在の成功を、語ることはできません。対して山田はどうでしょう。山田の映画は映画の教科書ですが、山田洋次を崇拝する春秋に富む若者に会ったことがありません。