作家の感受性は恐ろしい。三島由紀夫は今の日本を予言していました。

コンテンツ・ビジネス塾「サムライ」(2010-44) 11/23塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、サムライシネマ
不気味です。時代劇が同時に何本も制作・上映され、サムライシネマとして人気を集めています。
1)『雷桜(らいおう)』(監督:廣木隆一、主演:岡田将生蒼井優)・・・徳川家斉11代将軍の時代。将軍の17男という血筋の男性と、名も知らぬ山育ちの娘との、身分と立場を超えた危険な純愛物語。ただし女性が拍手する素晴らしい結末があります。
2)『13人の刺客』(監督:三池崇史、主演:役所広司伊勢谷友介)・・・徳川家慶12代将軍の時代。エロとテロで残虐の限りを尽くす暴君・明石藩主の大名行列に切り込み、暗殺に立ち上がる13人の男たちの物語。『7人の侍』(黒澤明監督)を彷彿させるアクションエンターテイメントです。
3)『桜田門外ノ変』(監督:佐藤純弥、主演:大沢たかお)・・・徳川家定13代将軍、徳川家茂14代将軍の時代。幕府政治を独裁者のように進める大老井伊直弼を、水戸藩の浪士が桜田門外で襲撃します。そして暗殺に成功した18人(十八烈士)には、きびしい逃亡生活が待っています。
映画の広告に登場するサッカーのサムライジャパンの岡田武史前監督は「私心を捨て、美しく生きる、武士の価値観で生きてみないか」と呼びかけます。しかしこれは怖いことです。サムライの生き方の頂点にあるのは、腹切(はらきり)と敵討(かたきうち)。死を以て抗議し、責任を取り、意思を表す。行動することです。ここでは、現在の政治につながる『桜田門外ノ変』から、行動を学びます。
2、『桜田門外ノ変
なぜ水戸の浪士は大老井伊直弼を襲撃殺害したのでしょうか。
1)大老は、天皇の意思に従わず、あるいは反対し、政治をすすめていました。
2)大老は、米国に言いなりになり、「日米修好通商条約」を結びました。
3)大老は、「安政の大獄」で反対派を逮捕し、水戸藩を弾圧しました。
桜田門外ノ変から、歴史の動きは加速されます。
桜田門外ノ変なくしては、倒幕、大政奉還はあり得ませんでした。水戸藩は、幕府の弾圧と藩内の対立から、尊王攘夷天皇の下に集まり軍備を強化し外敵を打ち払う)の主役の座から降りますが、志は薩摩、長州、土佐、肥前に受け継がれ、8年後の明治維新に一直線につながっていきます。
開国は日本の植民地化への危険がありました。映画の冒頭でアヘン戦争の説明があります。英国は麻薬アヘンの輸出禁止を理由に、清(中国)に戦争を仕掛け、香港の租借などの利権を獲得します。欧米の次のターゲットは日本でした。明治維新で日本の植民地化は回避されます。
映画は、桜田門近くの国会議事堂のカットから始まり国会議事堂のカットで、暗示的に終わります。なぜ国会なのか。現在も150年前と同じ、米国、中国との国交が議論がされているからです。
3、日本堕落論
戦後の日本は、かつての英国の言いなりになった清のように、米国によって占領されている国です。
戦勝国アメリカの統治下、あてがい扶持の憲法に表象されたいたずらな権利の主張と責任の放棄が、教育の歪みに加速され国民の自我を野放図に育てて弱劣化させ(中略)それはちまちまとした、しかし飽く無き欲望を育んだ平和の毒に依るものとしかいいようがない」「平和は自らが払うさまざまな代償によって初めて獲得されるもので、何もかもあなたまかせという姿勢は真の平和の獲得へとは繋がり得ない」(「日本堕落論石原慎太郎 『文芸春秋』12月号 p.122~123)。
石原のよれば、現在の日本にも米国に追従する、平和主義と民主主義の井伊直弼がいることになります。そして石原は、米国製ではなく日本の憲法を作ること、米国の核の傘に頼るのではなく、日本が核兵器を持つことを提案します。核あれば、北朝鮮の拉致、米国の収奪、中国の領土侵犯はありえなかったと断言します。これは桜田十八烈士が感涙する、「攘夷」論ではありませんか。
かつて日本を代表した小説家の三島由紀夫は、「核の問題は君にまかせる。我々『楯の会』は憲法改正を受け持つ」と石原に明言しました(前掲書p.145)。そして三島は昭和のサムライとして行動を起こし、1970年11月25日に切腹し死んでいきました。
不気味です。映画作家や小説家の鋭敏な感受性は、日本の未来に何を見ているのでしょうか。