コンテンツ・ビジネス塾「ソフィア・コッポラ」(2011-18) 5/10塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、いい映画とは?
どんな映画がお気に入りですか。泣いた。笑った。ドキドキした。興奮した。拍手した。主人公が好きだ。感動した。もう一度見たい。いろいろな映画の評価の仕方があります。
ここではクリエーターのための映画評価の基準として、1)こんな映画を作りたかった、2)映画を作りたくなる映画、3)主人公のマネをしたくなった、以上の3点をあげてみます。
例えば作りたかった映画とは、ゴダールの『勝手にしやがれ』。不良が勝手気ままをし、最後にK官に撃たれて「最低だ!」とつぶやき路上で死んでいく映画。または北野武が不良高校生ふたりを描いた『キッズリターン』です。例えば映画を作りたくなる映画とは、レオス・カラックスの『ポーラX』、溝口健二の『祇園の姉妹』。どのシーン、どのカットもカッコいいからです。例えば主人公のマネをしたくなる映画とは、デニス・ホッパーの『イージー・ライダー』、山下耕作の『総長賭博』。イージー・ライダーのピーター・フォンダはスタイリッシュなヒッピー。総長賭博の鶴田浩二は、義理と人情の人で、言葉と仕草が洗練されています。
以上3つの評価基準をもとに、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞、ソフィア・コッポラ監督の『SOMEWHERE』を考えてみます。
2、『SOMEWHERE』
ハンサムで人気絶頂の大スターが、離婚して妻が育ていた11歳の娘と、突然一緒暮らすことになります。やがてふたりにかけがえのない絆が生まれます、スターは芸能生活を捨てどこか(somewhere)で、人生をやり直したくなります。
1)「作りたかった映画」。映画志望の学生のみなさんには申し訳ありませんが、いま流行のCGも特撮もアクションもない、日常生活をふつうに撮影した映画です。だからいいんです。人間の真実を描いた映像でなければ、映画にならないからからです。
2)「俺も作るぞ。その気にさせる映画」。映画の舞台はロス・アンジェルスのホテル「シャトー・マーモント」。伝説のロックシンガー、ジム・モリソンや映画俳優ロバート・デ・ニーロがプライベートな時を過ごし、写真家ヘルムート・ニュートンが自動車事故で最後を遂げた、ホテルです。まず11歳の少女のファッションがおしゃれ。映画祭での薄いベージュのイブニングドレス、普段着のギンガムチェックのワンピースが可愛い。そして音楽、『テディ・ベア』や『煙が目にしみる』が歌われるのですよ。さらに映画界、メディア、ジャーナリストへの皮肉、批評、ユーモアがたっぷりあります。
3)「俺も主人公のように」。映画スターのファッションは、Tシャツ、Gパン。モテモテで、黒のフェラーリに乗っていますが、いつも孤独、さみしそう。ウーム、いいんじゃない、と思わせます。
結論。ふだんをふつうに撮影したのだけど、さりげないおしゃれに溢れている。「いまどき」に噛み付きスカッとさせて、そのあとの淋しさまでも共有させてくれる。つまりソフィアは『SOMEWHERE』で、クリエーターがあこがれる映画を作りました。
3、コッポラ監督
『スター・ウォーズ』のルーカス監督、『ジョーズ』のスピルバーグ監督、『ゴッドファーザー』のフランシス・フォード・コッポラ監督。誰が好きか。アメリカ映画の3大監督はそれぞれが偉大ですが、映画作家らしい監督と言えば断然、コッポラでしょう。あとのふたりは所詮「お子さま・ランチ」。ソフィア・コッポラはそのコッポラ監督の娘です。
『SOMEWHERE』では、父のフランシスが製作総指揮、兄のローマンが製作そして娘のソフィアが脚本・監督をつとめています。この映画には、なぜリアリティがあるか。それはフランシスとソフィアの父娘の思い出がそのまま反映されているからです。多忙な父を持ったソフィアの心の傷は、偉大なフランシスの苦しみでもありました。なんだか、小説『きことわ』の朝吹真理子を思い出します。ソフィアも真理子も偉大な芸術家の家に生まれたお嬢さま。だから趣味がいいんだ。
いけない、いけない、こんな結びではいけない。AKB48を生んだ、秋元康の言葉を思い出しましょう。「心に刺さるものを作ろう」「みんなが群がっている野原には野いちごはもうない」(日経4/13)。