ブラック・スワンを予測可能で、総括していませんか。

コンテンツ・ビジネス塾「ブラック・スワン」(2011-20) 5/17塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、予測
「想定外の異常なことが起き、大きな衝撃を受けると、私たちは『それが起こってから』適当な説明をでっち上げ筋道をつけ、予想が可能であったことにしてしまう」(『ブラック・スワン』上P.4からの大沢の要約 ナシーム・ニコラス・タレブ 望月衛訳 ダイアモンド社)。
M9の地震がくるのは分かっていた、津波原発の危険性も警告通りであると、主張する正義派の論客に質問します。本当に予測できたのでしょうか。疑問です。私たちの思考法にひとつの欠陥があるからです。地震などは「ベキ分布」で起きます。それに対して私たちが常識で持っている思考のツールは、釣り鐘(ベル・カーブ)型をした「正規分布」です。平均点と偏差値の「正規分布」は高校で学びます。しかし「ベキ分布」はなじみがない。それもそのはずです。高校の指導要綱になく、大学で統計を選択しても触れられない、というのですから(「『統計の常識』超す大災害の本質」高安秀樹明治大学客員教授 日経4/7)。正規分布ではM9の巨大地震は無視できるような小さな確率でしか起こりません。しかしベキ分布はM9を警告します(想定されていた「宮城県沖地震」は、M7.5、想定死者300人。『文芸春秋6月号』P.159蒲田浩毅京大教授)。
2、ベキ分布
1000人の人を集め体重順に並ばせる。トップには思いつく限り体重の重い人、たとえばかつての小錦(200キロ)を選ぶ。50キロ平均として全体で50000キロ、小錦は200キロは全体のたったの0.4%で大きな影響を与えません。これが正規分布の世界です。今度は1000人を集め財産の順に並ばせる。トップにはビル・ゲイツに並んでもらう。ビルの財産は800億ドル、ビル以外の全体で600万ドル。ビルの財産は、全体の99.9%なります。これがベキ分布の世界です。
ブラック・スワン』のタレブは、正規分布の世界を「月並みの国」といい、ベキ分布の世界を「果ての国」と表現します。「月並みの国」のメンバーは、凡庸。たとえば身長や体重。予測、推測が可能。歴史は流れていきます。「果ての国」のメンバーは、巨人か小人、典型的なメンバーはなし。財産額や地震の大きさ。過去からの予測は困難。歴史はジャンプします(前掲 P.82)。
地震の大きさと頻度の関係がベキ分布なら、M5の地震が年100回、M7が年1回、M9が100年に1回と推定される。ある10年間観測結果は、M5が1000回、M7が10回。M7のエネルギーはM5の1000個分。M5のエネルギーを1とすると、平均は約11になる。ところがM9が1度起こると、そのエネルギーはM5の1000×1000=100万倍なので、平均は約1011になってしまう。これがベキ分布の異常さで怖さです(前掲 日経)。
ベキ分布では平均値や標準偏差などの最も基本的な統計量が意味を持ちません。
3、ブラック・スワン
オーストラリアが発見(ヨーロパ社会に加わる)されるまで、白鳥といえば白いものでしたが、たった一羽の黒い白鳥の確認で、人間の常識の根本が覆されてしまった例を挙げ、タレブは異常な事象を「ブラック・スワン(黒い白鳥)」と呼んでいます。
ブラック・スワンとは、「2001.9.11テロ攻撃」です。もし想定できていたなら、コックピットへのドアを防弾にしカギをかければ、それでテロを防げたのです。ブラック・スワンとは「1912年のタイタニック号の沈没」です。船長は事故に遭わなかった、災害になりそうな窮地に追い込まれたことは一度もないと、文章に残していました(前掲P.91)。
タレブは警告します。ブラック・スワンを見ても予測できた、と論陣を張る月並の国の思考法を。
しかし東日本大震災は、タレブの予測できない予測すらも超えていました。「今回は千年に一度の地震、千年に一度の津波。それも文明国を襲ったことのないような津波だ(中略)。確率が10のマイナス7乗だろうが、9乗だろうが関係のない、まったくデータのない世界が現出してしまった」(『日本復興計画』P.74 大前研一文芸春秋 *注:869年の貞観地震は死者1000人、M8.4 前掲蒲田)。
原子炉設計が専門でありながら、原発の終焉を宣言する大前の叫びは痛切です。現在私たちは「ベキ分布」を超えた、「果ての国」の極北のブラックスワンに遭遇しています。