THE TED TIMES 2023-05「ロウ・イエ」 2/2 編集長 大沢達男
世界ナンバーワン監督、ロウ・イエの『シャドウプレイ』をどう評価すべきか。
1、期待
映画『シャドウプレイ』(ロウ・イエ監督 中国 2019年)を見るために、コロナ騒ぎで、3年待たされました。
私の世界3大監督は、ロウ・イエ(中国)、トラン・アン・ユン(ベトナム)、レオス・カラックス(フランス)、北野武(日本)、ポン・ジュノ(韓国)、ソフィア・コッポラ(米国)の6人の中から、その時々の気分で3人を選びます。
私のイメージの中ではいつも、ロウ・イエ監督がいつも一番でした。それだけにこの3年は苦痛でした。待ち焦がれました。
そしてその待ちに待った『シャドウプレイ』は、・・・期待外れ、我がことのように深く悩んでいます。
なぜダメだったのか。セックス・シーンがダメだったからです。
まず映画の冒頭の恋人たち河べりでのアオカン(青姦)・シーン。淡白すぎます。そしてふたりは映画とはなにも関係ないではありませんか。
映画の中ではヤン刑事と、役人タン主任の妻でありジャン社長の元愛人で背中に刺青のある、リン・ホイとのセックスがあります。
ハニートラップ(色仕掛け)です。セックス中の写真を盗撮しばらまくことを目的にした行為です。とんでもない破廉恥を覗きたかった。
成熟したリン・ホイのテクニックを拝見したかった、そしてそれにあえぐ若くハンサムなヤン刑事の悦楽を共同体験したかった。
また逆にヤン刑事は、そのリンとタンの娘である若いヌオとも関係を持ちます。いわゆるおやこどんぶりです。若いタンが開花する瞬間を描いて欲しかった。ヤン刑事の暴力的なセックスを見たかった。
ロウ・イエ監督はいつも観客たちをリードするかのように激しいセックスシーンを描いてきました。パンチがありました。その強烈なセックスが、そのまま登場人物たちのキャラクターの強烈さになり、映画の強烈さになっていました。
2、検閲
「中国の映画監督は、エネルギーの多くを検閲との交渉に使わざるを得ない」、「『暴動シーンは、ほぼ削除せよ』という検閲意見に従うことは絶対にできないだろう」(樋口裕子 映画のカタログより)。
つまりロウ・イエ監督は、今回中国公開のために自主規制したことが、ありありと分かる映画です。
暴動シーンほかにもセックスシーンで検閲を受けたら映画が映画として成立しなくなってしまう。それでセックスシーンを抑えめにした・・・。
不作の原因を検閲の所為にするのは簡単ですが、それ以外にもある、つまりシナリオがよくないという疑問を持ちました。
1980年代からの「中国の改革開放政策の歪み」なんかに興味ありません。
悪は、ジャン社長なのか、役人タン主任なのか。それともヤン刑事なのか。謎は何か。だれを追い詰めるのか。そもそも映画の主役はだれなのか。
わかりにくい。私は二週連続吉祥寺のアップリンクに通って『シャドウプレイ』を見ましたが、それでもわかりにくい。
3、王傑(Dave Wang)
映画『シャドウプレイ』で一番好きなシーンは、台湾でジャン社長がリエン・アユン(ミッシェル・チェン)と知り合う、ミッシェル・チェンが歌うシーンです。映画の本筋とはあまり関係がないのですが、なんと可愛らしい。
♬ “That was nothing more than last night game / That was nothing more than a game and a dream / Although your shadow still lingers in front of me / you haven’t been my song for long time now / This is only a game and a dream.”♬(映画で歌われたの中国語)
「 A Game and A Dream」(一場遊戯 一場夢)は、1987年発売の同名のアルバムがアジアで1800万枚売れたという、台湾のロック・シンガー王傑(Dave Wang)のスーパー・ヒットソングです。
映画には納得しませんでしたが、映画『シャドウプレイ』の撮影と編集の映画IQは高い。ロウ・イエ監督の世界ナンバーワンは動かない、ことにしておきましょうか。