忘れちゃ困る、IBMは死んじゃいない。

コンテンツ・ビジネス塾「IBM」(2011-28) 7/4塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、創立100年
最近おとなしいIBM(International Business Machines Corporation)が100周年を迎え、日経に「この100年を、次の100年へ。」という全ページ広告を掲載しました(日経6/16)。
IBMという社名は1924年からで、1911年の創業時は別名です。その名前がIBMをしのぐほどいい。
C-R-T社(The Computing-Tabulating-Recording Company)。計算し、図表にし、記録する会社です。広告ではこのC-R-T社の創立を皮切りに、25のイベントでIBMの業績を振り返っています。1914年障がい者に雇用の門戸をひらく。1937年マークシート方式の採点システムを開発。1962年航空会社の座席予約システムを開発。1969年コンピューターで人類を月面に導く。1973年UPCバーコードにより流通業界を変革。1997年”Deep Blue"がチェスのチャンピオンに勝利・・・。入学試験ができるのも、海外旅行ができるのも、コンビニでいろいろな買い物ができるのも、IBMのおかげです。巨人IBMは、1990年代、PC(パーソナルコンピューター)に市場を奪われ、莫大な損失を記録しました。時代は、マイクロソフトインテルの時代になりました。IBMメインフレームは、時代遅れ、過去の遺物、滅び行く恐竜と揶揄(やゆ)されました。そして現在のアップルとグーグルの時代を迎えます。IBMは過去の企業になったのでしょうか。
2、トーマス・ワトソン・ジュニア
IBMの経営の根幹はトーマス・ワトソン・シニア(1914~1956までの42年間CEO)とトーマス・ワトソン・ジュニア(1956~1971の15年間CEO)の父子によって築かれました。あのユニクロ柳井正ファーストリテイリングCEO)が経営の参考にしているというトーマス・ワトソン・ジュニアの言葉があります(『IBMを世界的企業にしたワトソンJr.の言葉 A BUSINESS AND ITS BELIEFS』トーマスJ.ワトソン.Jr 朝尾直太訳 英治出版)。
会社組織は、信条(beleif)で動く。1)信条とは、会社の方針と活動の土台となるものです。2)会社が成功するためには信条を守ることが必要です。3)変化に対応するためには、信条以外のすべてを変える必要があります(前掲書P.21から大沢の要約)。IBMの信条とは。
1)個人を尊重する・・・90年代のリストラが行われるまで、IBMは日本企業のような終身雇用を採用していました。「会社が社員を大切にし、さらに社員が自分を大切にする手助けをしたときに、会社の利益は最も大きくなる」(P.36)。そしてIBMは「野ガモ」のような社員を大切にしました。「野ガモを飼いならすことはできるが、飼いならされたカモを野性にかえすことは決してできない」(P.46)。
2)世界一の顧客サービスを提供する・・・「IBMの契約で提供するものはつねに、レンタルの『機器』ではなく機器による『サービス』、つまり設備としての機器とIBMのスタッフによる継続的な助言である」(P.50)。製品を売った後も企業は責任がある、この考え方は新しかったのです(日経6/19)。
3)すべての仕事を最高のやり方で遂行する・・・「不可能に見える仕事を進んで引き受ける会社だけが抜きん出る」(P.53)。「完璧を目指さずに成功するより、完璧を目指して失敗するほうがよい」、このワトソンの言葉ほど社員を勇気づけるものはありません。
3、次の100年
世界のスパコンランキングで、富士通理化学研究所が共同開発中のスーパーコンピューター「京(けい)」が1位になりました。しかし富士通スパコン事業は赤字続き、スパコンTOP500でのシェアは、トップのIBM39.2%に対して、富士通はわずか1.4%にしかすぎません。企業にサービスとソフトウエアを提供するビジネスソリューションのIBMは健在です。そしてベスト・グローバル・ブランド・ランキング(2010年インターブランド社)でも、IBMコカ・コーラにつぎ第2位を占めています。
IBMの底力を感じさせるニュースに出逢いました。「日本IBMこがも保育園」(注:「野ガモ」を育てる「こがも」です)です。IBMが社内保育園で英語教育をしているのです。日本人のIBM社員がいちばん苦労している英語、子どもにはそんな思いをさせたくないのです。レッスン中は日本語なし、♪Twinkle twinkle little star♪ I歳の幼児たちが声をそろえて歌っています(日経6/20)。
個人を尊重する。IBMの信条は、未来を担う子どもたちにまで、及んでいます。