コンテンツ・ビジネス塾「フランス哲学」(2011-48) 12/1塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、『サルトルとボーヴォワール 哲学と愛』
『サルトルとボーヴォワール 哲学と愛』(Les Amants du Flore)は、フランス語が話される本物のフランス映画です。サルトルもボーヴォワールも20世紀の後半に活躍し、世界中の若者に影響を与えた哲学者でした。二人は結婚を否定し、お互いが拘束されず愛とセックスを楽しむ「契約結婚」で、世界を驚かしました。さらにサルトルは、ノーベル文学賞に選ばれますが、賞と名のつくものは一切いらないと受賞を拒否し、さらにスキャンダラスな存在になります。映画のタイトルには「哲学と愛」とありますが、映画の内容からは「哲学とファッションとセックス」です。フランスで一番の哲学者は、ファッションでも、セックスでも、一番でした。サルトルとボーヴォワールは、ロックンローラーや映画スターのようなアイドルとして、私たちに哲学を教え、生き方を問いかけました。
2、哲学とファッションとセックス
1)実存主義
哲学は、自分とは何者か、世界とは何か、いかに生きるべきか、を問うものです。サルトルは答えました。人間はかくあるべきと本質を与えられたものではない、石ころのように意味なくこの世に投げ出された存在(実存)である。そして自らの働きかけにより(投企)により人生は意味あるものになっていく、だからいつも世界の現実に参加して(アンガージュマン)いなければならない。
日本では、サルトルの影響を受けた小説家大江健三郎が、同じようにしてアイドル的な存在になります。しかし大江の人気はやがて失墜していきます。理由のひとつは彼の営業方針、「平和憲法」と「戦後民主主義」が、GHQ(アメリカ)によるマインドコントロールの遺産でしかないことが分かってきたこと、ひとつは彼が『個人的な体験』により倫理的な行動をとらざるを得なくなったことです。
2)Gパンのない幸せのファッション
映画の舞台は1930年代と40年代のパリです。戦後、アメリカから全世界に広がったカジュアル・ファッションのシンボルGパンは、まだ存在しませんでした。男子も女子も誰もGパンをはいていません。そして驚きます。Gパンのなかった頃の女性ファションはなんて豊かだったのだろうか。ブラウス、スカート、ワンピース、ジャケット、さまざまな組み合わせ。そして色彩、ボタン、テキスタイルの自由さ。従ってヘアスタイルが楽しくなってきます。あの頃のパリに戻りたい、可愛いマドモアゼルがたくさんいたからです。
ただ男子はつまらない。実存主義者は白のワイシャツにネクタイ、さらにジャケットも着ていました。
3)レスビアン
二人は家を持ちませんでした。ホテルの別々の部屋に住み、仕事(執筆)はカフェ、食事はすべて外食でした。そして二人の関係はお互いに束縛されない自由なもの。だけど隠し事はしない。だからお互いのセックスをすべて報告しあうというものでした。サルトルはボーヴォワールの教え子と寝ます。ボーヴォワールは教え子の女生徒とレスビアンの関係になります。ボーヴォワールは渡米中にアメリカの作家と仲良くなりドライにセックスを楽しみます。契約結婚、一夫一婦制の否定、自由恋愛、タイトルはいろいろありますが、ともかく二人は性に貪欲。映画はその快楽を描きます。
3、自分探し
オタク、ヤンキー、ミーハー。日本の若者は3種類に分けられます。哲学、ファッション、セックスで、3種類の日本の若者はどのように評価できるのでしょうか。趣味の悪さは別として、ファッションではみな合格、主張があります。セックスは疑問です。オタクのみならずセックスレスが浸透しています。そして哲学。これは絶望的です。みんなマイペースだけが哲学で、世界観などありません。
「かつてオウムに走った若者の多くは自己実現への道を探しあぐね、孤独にさいなまされ、『居場所』と求めていた」(日経社説11/22)。地下鉄サリン事件後の強制捜査から16年、オウム真理教事件の刑事裁判がすべて終わりました。しかしこの事件がなぜ起きたのか。真相は解明されませんでした。この事件の真犯人は、日本の歴史と伝統を破壊し、哲学を不可能にした「平和憲法」と「戦後民主主義」である。サルトルはそんなことを考えさせました。