私たちが山本五十六の戦いを空しいものにしている。

コンテンツ・ビジネス塾「山本五十六」(2011-52) 12/31 塾長・大沢達男
1)1週間分の日経が、3分間で読めます。2)営業での話題に困りません。3)学生のみなさんは、就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、反戦
真珠湾攻撃(1941年)から70年、この作戦を指揮した映画『山本五十六』(半藤一利監修 長谷川康夫脚本 成島出監督)が公開されています。この映画から何を学べるのでしょうか。
1)真珠湾攻撃は騙し討ち(sneak attack)として語り継がれていますが、山本は宣戦布告が行われているかを、何度も確認しています。しかし実際に米国に最後通牒が手渡されたのは、攻撃の55分も後でした。外務省の失態です。
2)このことに代表されるように、政府部内はギクシャクしていました。海軍内部には対立がありました。山本は米国との戦争に反対でした。国力の違いです。国民総生産は12.7倍。生産力では、艦艇4.5倍、飛行機6倍、鋼鉄10倍。原油の生産量は740倍。日本は米国からの石油に頼っていました。戦えば石油は輸入されなくなります(『山本五十六』P.131半藤一利  平凡社ライブラリー)。
3)陸軍は長州、海軍は薩摩。明治維新以来、軍隊は攘夷派のものでした。戦争反対の山本五十六は長岡、米内光政は盛岡、井上成美は仙台、元をたどれば佐幕派でした。軍縮三国同盟、日米開戦で、海軍省と海軍は対立していました。
山本は戦争反対でしたが、やむなく真珠湾攻撃の指揮を執ります。そして見込みのない戦争を止めるために、常に講和のチャンスを狙っていました。300数十万の戦死者のほとんどは山本の死後に生じたものです。
現在の日本ではどうでしょうか。TPP反対派は米国の言いなりなるなと、威勢良くコブシを振り上げ戦いを主張します。賛成派は米国と組みブロック経済で生き延びようと、平和を提案しています。
歴史は繰り返すのでしょうか。
2、新聞
映画は新聞の恐ろしさを描いています。
1)新聞は日独伊の三国同盟の締結を主張します。山本は、ヒットラーと手を結ぶことに反対します。
ヒットラーは、日本に差別的な感情を持っていて、ただ利用することだけを考えていました。しかし同盟は結ばれ、日本の転落が始まります(『文芸春秋2012.1』 P.121 半藤一利)。
2)新聞は戦果を大々的に報道し、大衆を煽動し、発行部数を伸ばします。
3)戦後の新聞は営業方針を転換します。「民主主義」を大見出しにします。平和が儲かるのです。
東北大地震の報道、なかでもいたずらな恐怖心をあおる 放射能と反原発報道は、新聞が何も変わっていないことを証明しています。
現在の日本は、新聞が「戦争の推進者」であった、ことを忘れています。
3、ヒーロー
戦争は、外交で、交渉で、取引で、勝負です。山本は将棋、ポーカー、ギャンブルの天才でした。負けを知らない男でした。勝負に強いとは、度胸がいい、大胆である、勇猛である、というのと違います。うまい取引をすることです。山本は、いつも引き際、講和を考えていました。
山本の手帳には、亡くなった部下の名前と遺族の住所が、全て記録されていました。
軍人を描いた映画なのに、山本の母や家族がしきりに登場します。
父として山本は三人の子どもに教えます。「いただきます」のあとにハシをとったら、まず少しみそ汁をいただき、それからごはんに手を付けなさい。そして父は、大きな煮魚の身を、お皿にとりわけ与えます。子どもたちはありがとうございます、と父に感謝します。なにげない幸せな家族の夕餉(ゆうげ)のひとときです。
なぜ戦うのか。山本は明確に答えます。
父母を敬うからだ、そしてその命を育んだ国と土を愛するからだ、だから日本のために戦う。
現在の私たちには、この幸せな夕餉のひとときがなくなりました。そして父母を敬う心も、祖国を愛する心も失われました。
日本海軍のヒーロー山本五十六の戦いは空しいものとなりました。