ビジネス塾8「クリント・イーストウッド」(2012.2.22)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事からホットな話題をとりあげました。2)新しい仕事のアイディが生まれます。3)就活の武器になります。4)毎週ひとつのキーワードで、知らず知らず実力がつきます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、FBI長官
アメリカでは大統領が交代すると、各省の長官、大使、そして政府の課長クラスまでの、数千人から数万人までの人事が変更されます。ところがその中で、ひとつだけ不動の人事がありました。それが映画『J・エドガー』の主人公になった、J・エドガー・フーバーです。J・エドガーは、8人の大統領に仕え、50年近くアメリカの権力の中枢、FBI長官の任にあった異例の人です。
なぜJ・エドガーは、権力に居座ることができたのでしょうか。
そもそもFBIを創立したのが彼、自分が思うままに巨大な組織を作り上げました。つぎに指紋管理システムをはじめとする科学捜査を導入しました。そして盗聴。大統領などの要人の秘密を調べ上げ、極秘ファイルを作りました。目的は共産主義者から国を守るため。いかなる権力者もJ・エドガーに弱みを握られ、だれもJ・エドガーに逆らうことはできなくなっていました。
結婚もできない性的に異常な男が、、共産主義からアメリカ合衆国を守る話です。現代史を映画化をするアメリカの民主主義には底力があります。クリント・イーストウッドとは、何者でしょうか。
2、クリント・イーストウッド
クリント・イーストウッド(Ciint Eastwood Jr.1930~)は、1950年代から映画俳優として活動を始め、テレビドラマ『ローハイド』(1959年〜)でブレイク、その後イタリアで『荒野の用心棒』(1964年)などに出演、さらにヒット作『ダーティーハリー』(1971年)で一世を風靡しています。
その後映画監督になり、『許されざる者』(1992年)、『ミリオンダラーベイビー』(2004年)で、アカデミー賞の作品賞と監督賞を2度受賞、アメリカを代表する映画人になりました。
『許されざる者』は、なつかしい西部劇です。列車強盗、殺人で悪名をとどろかせていた男が、いまは二人の子どもと平和な生活をしています。そこにかつての仲間のおいが訪ねてきて、賞金目的の殺しに加わらないかと話を持ちかけます。ターゲットは二人のカウボーイ。彼らは、酔って売春婦の顔と身体に刃物で傷付ける残虐な暴力を働いたにもかかわらず、許されていました。殺しを依頼したのは、被害者の仲間の売春婦たちでした。男は心を動かし、賞金稼ぎの旅に出ます。
もと悪人が並外れた勇気を発揮し、正義を実現する映画です。
『ミリオンダラーベイビー』は、女性のボクサーの話です。家族とうまく行かずボクシングジムを経営している男のところにボクサー志望の女がやってきます。「女はだめだ」と男は断りますが、女はジムに居着きます。あまりもの熱心さに男は心を動かされ練習の面倒を見るようになります。リングにデビューした女は連戦連勝。ついにはラスベガスでタイトルマッチを戦うようになります。勝負は勝ち。しかし対戦相手の試合終了後の反則パンチで致命傷を負い寝たきりの生活のなってしまいます。病院で自殺を図る彼女。ある日、男は決断します。彼女につながれたチューブを外してしまいます。
自らの娘と交流できない男が、見知らぬ女性との絆を守るために、犯罪を犯す映画です。
3、映画の教科書
イーストウッド監督の映画には、奇想天外のバイオレンスやアクションはありません。CG、合成、特撮映像もありません。緻密なキャメラワークと綿密な編集、映画の教科書のような映画です。いうなればアンプラグド・シネマ、アコースティック・シネマです。そして映画のテーマは、正義を貫くこと、絆を大切にすること、民主主義を守ることです。アメリカ社会を根本で成立させている人間性を描いています。これもアメリカ映画の教科書のようです。イーストウッド監督をリスペクトします。しかし、君もこんな映画を作りたいか。問われれば、答えはノーです。
なぜなら、私が日本人だから。イーストウッド監督は太平洋戦争末期の硫黄島の戦いを描いた映画を二本作りました。日本側から描いた『硫黄島からの手紙』とアメリカ側から描いた『父親たちの星条旗』。なんという公平さ。正義、絆、平等、アメリカ民主主義の合理性を世界に宣言するような映画作りでした。心を動かされます。しかしそれ以上に心を動かされることが硫黄島にはあります。
「慰霊地は今安らかに水をたたふ如何(いか)ばかり君ら水を欲(ほ)りけむ」(皇后)
皇后は地下壕で死んでいった兵士たちに祈りを捧げました。涙は行くえを知りません。