クリエーティブ・ビジネス塾4「新聞広告」(2013.1.16)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、日本の底ヂカラ
元旦の新聞広告は企業の社説です。1年の経営方針が表明されます。つぎに、元旦の新聞広告で日本経済の動きがわかります。今年の広告には、ソニー、パナソニック、シャープが不在でした。家電業界の不振がよくわかります。そして、元旦の新聞広告は、クリエーターのクリエイティブコンテストです。表現への挑戦があります。
「僕らの鼓動ー今、めぐり合う日本の底ヂカラー」。今年の元旦の新聞広告で目立ったのは、ジャニーズの嵐が出演する8ページの広告特集(朝日新聞2013.1.1)です。嵐の5人が出演している、JAL、日産、日立、キリンビール、ローソン、住友生命、日清オイリオ、アフラック、以上8社の広告と「日本の底ヂカラ」をテーマにした5人の語りで構成されています。
5人はまず「日本に宿る強さ再発見のとき」を語り、つぎに「僕らが出会った日本の底ヂカラ」として、大野智がニホンウナギの散乱を、相場雅紀がiPS細胞を、松本潤が子どもオーケストラを、二宮和也がロボットスーツハルを、櫻井翔がおもてなしを、語ります。そして最後は5人の「日本の可能性は無限大」と語る言葉と、5人が目を閉じ日本の幸せを祈る写真で結ばれています。
白の羽織と黒のストライプの袴そして白足袋に草履。嵐の5人がまぶしく、正月らしく、気持ちがよく、企画力で光る広告特集です。
2、資生堂
クリエーティブで目立っていたのは資生堂。若い女性の全裸写真が新聞一面に広がるショッキングな広告です。キャッチコピーは「わたし、開花宣言。」。そしてボディコピーは、「(前略)まずは、わたしから、きれいになってみよう。(First,I'll become beautiful.)そうして、あの人を笑顔にしよう。(That will make him smail.)(中略)世界はきっと、ほえんでくれる。(The world becomes a little brighter.)」ひとりひとりがきれいになれば、世界はもっと輝く。さわやかなメッセージです。ボディコピーに英語添えたのも、いい演出です。
ヌードを披露しているモデルは、映画『ノルウェーの森』、『ヘルタースケルター』で話題を呼んだ女優の水原希子(みずはらきこ)です。バストを両手で隠し、大きく笑いながらこちらをしっかり見ています。媚(こ)びていない、いやらしくありません。
水原希子は、特別のヘアスタイルも、特殊なメイクアップもしていません。マニュキアもしていない(ように見えます)。すべてはナチュラル。しかし撮影現場は大変だったと想像できます。なぜなら、ナチュラルが一番むずかしいから。髪のわずかなカール、眉毛、アイシャドウ、リップスティック、素肌の輝き、すべては完璧、ナチュラルです。この写真は今このとき、一瞬の輝きを捉えています。
3、トヨタ
最高傑作はトヨタです。北野武とジャンレノが、新発売予定のクラウンのそばにいる広告です。
キャッチコピーは共通、「頼れる、しかも、愛される。世界にとって、ドラえもんみたいな国になれるといいな、ニッポンは。」。「Re Born」(再生の意味)とトヨタのロゴマーク、そして広告面のすみに「FUN TO DRIVE , AGAIN」。
メッセージ内容を読む限り、自動車会社の車の広告ではありません。トヨタは世界と日本を代表する車メーカーとして、スケールの大きなメッセージを発しています。北野武は世界でナンバーワンの映画監督の一人で1947年生まれ。ジャンレノは映画『グランブルー』でブレイクしたフランス生まれの国際俳優で1948年生まれ。クルマにとって最大のマーケットである団塊の世代をしっかり押さえ、しかもふたりは個性の人、「ニッポンは」の大言壮語にも説得力があります。
GMに学んできたトヨタは、いまやGM以上に「頼れる」会社になりました。しかしどうでしょう。デート中の彼女に、こんどトヨタにする!、と言ったら、ステキ!と賛成されるでしょうか。トヨタの最大の問題は「愛される」に違いありません。しかしこれは余談。この広告は好感が持てる。出稿料も多い。
「買い手よし、売り手よし、世間よし」。近江商人の教えがあります。万巻(まんがん)の西欧経営学の教えもこのひと言に集約されます。元旦の広告は「世間よし」に力点が置かれます。