クリエーティブ・ビジネス塾31「787」(2013.8.22)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、LCC
いままでの大手の航空会社をFSC(Full Service Carrier)といいます。それに対して新しく登場してきた格安運賃の航空会社をLCC(Low Cost Carrier)と呼びます。FSCは高級百貨店、LCCはディスカウントストア。よく知られる、スイス航空、ルフトハンザ(ドイツ)、エールフランス(フランス)、ユナイテッド航空(米国)、JAL、そしてANAはFSCです。あまり聞いたことがない、ライアンエアー(アイルランド)、イージージェット(英国)、アメリカウエスト(米国)がLCCです。
日本にも、ピーチ・アビエーション、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンの3つのLCCがあります。だれもがディスカウントストアのLCCを望んでいるはずなのに、日本は未開拓、LCC利用者は全体の3%に留まっています。その理由は後で探りますが、欧米では20~30%、アジアでは52~57%まで、LCCが普及してきています。
2、ANA
日本にはJAL(日本航空)とANA(全日空)の二つのFSCがあります。JALは放漫経営で倒産し再建されました。日本を代表する経営者、稲盛和夫の手腕もありますが、いわば国営会社、国の手厚い保護が決め手になっています。たいしてANAは1952年に民間会社「日本ヘリコプター輸送」として誕生しています。JALに追いつき追い越せの目標でがんばってきました。このANAがLCCでも日本をリードしています。高級デパートをやりながらディスカウントストアにも手を出しています。
ANAはエアアジア・ジャパンとピーチ・アビエーションに出資しています。エアアジア・ジャパンは、先頃エアアジア(マレーシア)との合弁を解消し、新LCC「バニラ・エア)として11月に再出発することになりました。そのコンセプトは「リゾート(観光)」。ハワイ、グアム、サイパンに飛びます。またビーチ・アビエーションもテーマは観光。沖縄ー台湾線を開設します。
LCCはなぜ格安なのか。まず航空機。経済的な単一の機種を選び、整備を外注し、ランニングコストを押さえます。つぎにサービス。食事飲み物のサービスはありません。もしくは有料。訓練された乗務員の採用し、ユニフォームなども有料です。そして飛行場。着陸料の安い飛行場、しかも専用タラップのない「沖合」での着陸で、駐機料、着陸料を押さえます。日本でLCCが未発達なのはこの飛行場の問題があるからです。羽田の国際化、成田・羽田の首都圏デュアル・ハブ(2拠点)、さらには横田基地の利用も考えられます。
3、787
LCCの戦略機種として注目されているのが、話題と「問題」のボーイング787です。
ボーイング787は、「ドリームライナー」として開発されました。その特徴は、まず経済性。従来機(767、客席200~300席)の燃料消費を20%削減、二酸化炭素の排出量も20%削減、燃費改善効果は年間100億円(66機納入時)になります。もうひとつの特徴は室内の居住性。客室を高い気圧に保ち耳が痛くなりません。機内は加湿され、肌が乾燥しません。疲れがとれます(そんなバカな)。
なぜ787はそんなに優れているか。日本の技術で作られているからです。三菱重工、川崎重工、富士重工など60社以上が参加、35%を日本企業が作る準国産機です。なかでも決め手は、東レの炭素繊維です。燃費がいいのは炭素繊維で軽いから、機内の居住性がいいのは炭素繊維の強度があり、腐らないからです。787は尾翼、主翼、胴体、エンジンカバーすべてが軽く強い炭素繊維でできています。ランニングコストが安い、しかも乗り心地がいい。ですから787はLCCに歓迎されています。そして787は、航空機産業を根本的に変えてしまう「ゲームチェンジャー」とまでいわれています(大橋洋司=ANAホールディングス会長 『文芸春秋』2013.9 )。
食べたいものを食べたいときに食べる。フライトアテンダントの都合に合わせた食事サービスは時差ぼけの原因。そして自由に見て読み書く、機内を自分の書斎にし、客はあれこれ命令されない。それで、ニューヨーク往復5万円。しかもフライトで疲れがとれる(笑い)。そんな時代が787のLCCで夢ではなくなります。