映画の発明『ゼロ・グラビティ』

クリエーティブ・ビジネス塾50「ゼロ・グラビティ」(2013.12.26)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、映画
映画を作るとは、映画とは何かの問いに答えること、映画を発明することです。小説とは、詩とは、絵画とは、彫刻とは・・・すべての芸術にこの問いへの答が求められていますが、とりわけ新しい技術を使った芸術である映画には、発明が求められています。かつて映画評論家の淀川長治は、映画を発明している代表的な映画として、ロシアの映画監督エイゼンシュタインの『戦艦ポチョムキン号』(1925年)をあげました。
発明の視点から「ポチョムキン」を見ると驚きます。映画はたったの1~2秒のカットから構成されています。カメラは動きません。パンもズームもしていません。静止画のような何十、何百、何千のカットが積み重ねられ、シーンが生まれ、プロットになり、船の上で反乱が起こり、その反乱が燎原の火のごくロシア全土に広がり、壮大な歴史ドラマが動いていきます。動かない画の集合がモーションピクチャー(映画)になり、映画が発明されています。
2、3D&CG
2013年の最後を飾る3D映画『ゼロ・グラビティ』(原題『 Gravity』=重力)は映画を発明している数少ない映画、映画の傑作です。
あなたはいままでの3D映画に満足していましたか。崖から地上を見下ろして足がすくむような思い、恐竜が画面から飛び出してきて噛みつかれそうになる、爆発物の破片が画面から飛び出し、ぶつかりそうになる。でも子どもだまし、なんのリアリティもありません。
まず『ゼロ・グラビティ』は、3D映画を発明しています。
宇宙空間で遊泳しながら作業をする女性宇宙飛行士の顔のアップ。そのはるか彼方には母なる地球の姿がある。なつかしく、切ない。また、作業中の宇宙飛行士が何かの弾みで取り損なったボルト(ねじ)は、無重力の空間を飛び出すかのように観客に迫ってきます。逆に宇宙船との命綱を失ってしまった不幸な宇宙飛行士は、宇宙の闇の彼方に突き落とされて行きます。3Dはだれもが体験したくても体験できない宇宙空間の無重力を体験させてくれます。『ゼロ・グラビティ』は人物以外はすべてCG、ですからこの作品はCG映画も発明しています。
もうひとつ付け加えるなら『ゼロ・グラビティ』は、映像も発明しています。画像+音=映像。この作品は音の使い方でも優れています。象徴的なのは無音のシーン。観客は一瞬、自らの脳の血流の音だけを聞くことになります。これが宇宙空間の無音の表現になっています。さらには宇宙飛行士が作業中に聞くカントリー&ウエスタン(ハンク・ウイリアム)も粋(いき)です。そして「ワーナーブラザーズ」のエンド中のエンドのタイトルにまでにも、宇宙空間での交信音が敷かれています。いたずらに近いようなサービス精神があります。
3、戦争と平和
2012年のロケット打ち上げ回数は、ロシア24回、中国19回、米国13回、欧州10回、日本2回、インド2回です。人類初の有人衛星を打ち上げたロシアの実力は頼みの綱です。現在、ISS(国際宇宙ステーション)に人を運べるのはソユーズだけ。その乗り心地は、いつ地面を離れたかわからないほどスムーズ、砂利道をダンプで全速力で走るようなスペースシャトルとは大違い、と評価されています(日経12/8)。高い信頼性があります。
注目は中国です。先頃、月面探査機を打ち上げ軟着陸に成功させ、自前の有人宇宙飛行と月面着陸で、ロシアと米国に次ぐ3番目の国になりました。中国は宇宙でも問題児です。宇宙のターゲットをミサイルで攻撃しゴミをまき散らし、月面に兵器の実験場やミサイルの燃料倉庫・発射基地を作ると警戒されています(日経12/19)。
人類が宇宙へ飛び立つと、未知の敵に遭遇する。これがいままでの宇宙物語のテーマでした。しかし残念。現在の国際紛争は宇宙スペースまでにひろがっています。宇宙での敵は、現実の地上の隣りの国になっています。交響詩のように終わる『ゼロ・グラビティ』の結末は美しい、が物足りない。ドラマの発明では悔いが残ります。