レガートとスタッカート。小澤さんが学んだ斎藤秀雄は偉い。

クリエーティブ・ビジネス塾6「小澤征爾」(2014.2.5)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、天才
小澤征爾(おざわせいじ 1930年生まれ)は、日本が生んだ音楽の天才です。世界的な指揮者、シャルル・ミンシュやヘルベルト・フォン・カラヤンに指揮を学び、ボストン交響楽団サンフランシスコ交響楽団音楽監督をし、2002年から2010年まで、ウィーン国立歌劇場音楽監督を務めました。小澤はクラシック音楽のエリート街道を突っ走り、東洋人でありながら西欧音楽の頂点で仕事をしました。
このほど小澤は、日本経済新聞に「私の履歴書」を執筆しました。が、どこを探しても、俺はすごいぞ天才だ、のひと言ももらしませんでした。自らの才能をなんとも思っていません。やはり天才です。
小澤は東京の成城学園から桐朋学園に進み、斎藤秀雄に指揮を学びます。お金持ちの仲間たちがどんどんのヨーロッパに留学します。お金がない小澤は、渡航費用を出資してくれる人を捜します。船でヨーロッパに渡り、スクーター(富士重工業)をもらい、安く移動することを考えます。23歳の春に、それは実現。すごい情熱、すごい行動力です。
そして小沢は自らの天才をヨーロッパで証明します。フランスのブザンソンで開かれた指揮者コンクールで優勝します。そこから小沢の快進撃が始まります。
2、斎藤秀雄
小澤はこのところ「サイトウ・キネン・オーケストラ」で仕事をしています。サイトウとは小澤の桐朋学園時代の恩師、斎藤秀雄です。斉藤の教えを『斎藤秀雄講義録』(白水社)から紹介します。
1)誠意
音楽を楽しむを、食べることに例えると、まずおなかが空いていること。音楽に飢えてなければ音楽は意味がない。それから味わい、匂い、色彩。さらに「誠意」。皿をポンと放り投げて「おい、食べろ!」では、おいしくない。どーぞ召し上がれ、誠意をもって演奏する(前掲p.4~5)。
2)音の頭、真ん中、尻尾
音には、レガートとスタッカートとがある(前掲p.177)。頭は小さく、真ん中太く、尻尾小さくのレガート。頭が大きく、そのまま変わらないスタッカート。尻尾小さくのディミヌエンド、尻尾が大きくなるクレッシェンド。強く終わる、静かに終わる。音楽の終わりは感情を表している。
3)君が代
頭、真ん中、尻尾は、音も曲も音楽会も、ぜんぶ同じ。例えば、「君が代は、千代に八千代に、細れ石の巌となりて、苔のむすまで」。「君が代は、千代に八千代に」はひとつの状態を表している、「細れ石の巌となりて」は感情を表しているから強く、そして「苔のむすまで」は自分の希望を表しているから低く弱く歌う(前掲p.278)。
3、音楽への愛
小澤は演奏会の前日にあるパーテイーに指揮者であるにも拘らず出席しません。ムダな気を使いたくないからです。小澤は朝早く起きて勉強します。スコアを読みおさらいをします。コンサート当日は自宅で2時間ほど勉強し、その後はなるべく誰にも会わないようにして、指揮台に立ちます。
「あなたの音楽を素晴らしいと感ずるのは、その愛し方だよね。音のいつくしみ方のちがいだよ」(武満徹『音楽」新潮社 p.38)。「どうしても没入しきっていない指揮者がいるよね。小澤さんはやはり天才なんだろうね。没入しきっている」(武満徹 前掲書p.100)。「日本の音楽会に欠けているのは、興奮と言ったらおかしな言い方だけれど、音楽をやる興奮だよ」(小澤征爾 前掲書p.148)
愛し方、没入、興奮。具体的だけど、抽象的。どのような行動をとればいいんか、わかりません。ただひとつわかりやすい表現があります。
「(日本のオーケストラは)演奏のはじまる前、45分になってもだれも音を出さない。20分前になってもまだ音を出さない。最後の何分間にちょっと音を鳴らして・・・」小澤征爾は「楽器も手も暖めて、体を暖めなきゃ演奏なんかできないよ」(前掲p.75)と語ります。
音楽の天才は、あたりまえのことに一所懸命になる、努力の天才でした。