ユニクロは、「客よし、店よし、世間よし」、を実践している

クリエーティブ・ビジネス塾44「ユニクロ」(2016.10.10)塾長・大沢達男

ユニクロは、『客よし、店よし、世間よし』、を実践している」

1、1000万着のHELP
ユニクロの店内でもらった『服のチカラ』(16)は、ひとつのファッション企業のパンフレットを超えています。
理想とする企業のかたちがあります。私たちすべてが学ばなければならない、お手本があります。
特集は「難民の未来は、私たちの未来」。それによれば第1に、ユニクロは世界の難民問題を自らの問題として提起します。2006年に4000万人の難民は、10年経った2016年に6000万人を超えている。これは、だに2次大戦後、最悪の事態である。
第2に、ユニクロは難民問題の解決の一助として2006年から、国連難民高等弁務官事務所(UNHCER)などとのともに、世界の難民に服を届けてきた。人間としての最低限の尊厳を守るために。
第3に、さらにユニクロは、2015年10月から「1000万着のHELP」プロジェクトを、はじめた。全商品リサイクル活動として、世界16カ国・地域の全店舗でお客様から服を回収し、世界中の難民に1000万着のユニクロの服を届けた(2016年5月達成)。難民が一人もいない世界が実現したい。
『服のチカラ』はB5版16ページの堂々たるパンフレットです。驚きに近い感動と衝撃を、受けました。お前は今まで何をして生きてきた。お前は何のために働いてきたのだ。
2、優れた人格の法人
1)障害者の雇用・・・ユニクロ企業としての特質として、第1に取り上げなければならないのは、障害者の雇用です。障害者とは身体的障害者と知的障害者です。ユニクロでは2001年頃から各店舗最低1人の障害者の雇用をしています。その結果、障害者雇用促進法が定める民間企業の法定雇用率1.8%をはるかに超え、従業員5000人以上の企業では7.4%で断然トップです(2006年厚生労働省調べ。ウィキペディア)。障害者が目立たないのは開店前、閉店後、さらにはバックヤード働いていることが多いからです。
2)新しい日本人・・・ユニクロの経営上のターゲットは、ZARAH&M、GAPなどのグローバル企業です。ユニクロ自身も全世界12カ国で海外事業を展開しています。社内会議の公用語は英語、本社社員と店長には「TOEIC700点」以上を義務づけています。さらに本社では午前7時出社4時退社、週休3日も話題を呼んでいます。余った時間は自己啓発自己実現に使うのです。
3)モノづくり・・・ユニクロの服は、「シンプルで、上質で、長く使える」という日本的な価値観で作られています。そのために作り手ではなく着る人の価値観で、だれもが気軽に手にとれる価格で提供しています。さらに生活は絶えず変化するものであるから、ユニクロ自身もイノベーションで進化を続けています。
3、客よし、店よし、世間よし
商売は金儲けのために始める、とだれもが思います。しかしそれは商売を知らない、子供の発想です。日本には、まだ子供発想しかできない大人が、たくさんいます。商売を金儲けとバカにする人びとです。江戸時代の士農工「商」の名残りです。明治時代の軍人や役人が偉いという時代の影響です。もっといえば「末は博士か大臣か」の間違った立身出世主義の教えです。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」を覚えてください。江戸時代に活躍した近江商人が残した商売の秘訣です。近江商人とは琵琶湖周辺を拠点にして、全国で活躍した商人たちです。彼らは自分本位の商売を成り立たない、ことを身を以て体験しました。売り先を大切にする、そして社会からの信用も大切にしなければならないことを悟ります(『江戸商人の思想』p.90 平田雅彦 日経BP)。そして「売り手よし、買い手よし、世間よし」の言葉が生まれます。もっと簡単に「客よし、店よし、世間よし」ともいわれます。
いま経営学の世界では、グローバル企業の企業の社会的な責任が厳しく議論されています。とてもむずかしい学問的議論です。しかしどうでしょう。「客よし、店よし、世間よし」で、すべては解決します。
ユニクロ近江商人に教えに合格しています。「服を変え、常識を変え、世の中を変えていく」(ユニクロの親会社ファ−ストリテイリングの企業理念)はまさしくそのことを表現しています。
ユニクロの社長柳井正は子どものころ、みんなが山といえば川というほどのひねくれ者で、「山川クン」と呼ばれていました。70年代のヒッピー時代に青春を迎え「LOVE & PEACE」の思想の影響を受けます。そして米西海岸の大学のブックショップ(売店)でトレーナーやTシャツがスマートに陳列されているのを目撃します。それがユニクロの店舗の原点になっています。
私たちは柳井正の「LOVE & PEACE」を賞賛します。そして自らも、行動を始めなければなりません。