誰も知らない本当のエスビス

クリエーティブ・ビジネス塾48「Elvis①」(2017.11.27)塾長・大沢達男

「Elvis, Evils or Lives?」

1、誰も知らない本当のエルビス
エルビスプレスリーElvis Presley 1935.1.8~1977.8.16) は、「キング・オブ・ロックンロール」、「キング」で、「世界で最も成功したソロ・アーティスト」としてギネスに認定されています。
それは米国のヒットチャート誌「ビルボード」を見れば明らかです。全米No.1シングル18曲(歴代2位、1位はビートルズの20曲)、全英では18曲(歴代1位)。全米チャート入り149作、全英98作。全米チャートで、最も長くNo.1にエントリーしたアーティストとして、最多の80週を記録しています。
また、レコード・リサーチ社のランキング(米国でチャートインした楽曲をポイント化して計算)で、エルビスは2位のビートルズを4000ポイント引き離す圧倒的な存在になっています(『アメリ音楽史』p.157 大和田俊之 講談社)。
そしてエルビスほどほかのミュージシャンに影響を与えた歌手をはいません。代表はザ・ビートルズです。ジョン・レノンは、エルビスがいなければぼくたちは存在しなかった、と証言しています。
しかし嘆かわしい現実があります。「エルビス・プレスリーは現在最も過小評価されている音楽家のひとりである。(中略)若いミュージシャンがビートルズローリング・ストーンズの影響を公言することはあっても、最近はそうした文脈でエルビスの名前があがることはほとんどない」(p.155)
エルビスといえば、もみあげを長く伸ばし、白のジャンプスーツを着て、空手のポーズをして歌う、ラスベガス公演の姿をだれでも思い出します。しかしあれは、エルビスの成れの果ての姿(その魅力は全否定されるものではありませんが)。本当のエルビスではありません。エルビスは知られていません。
2、大滝栄一
エルビスを愛し、エルビスの影響を受け、エルビスに詳しい日本のミュージシャンに大滝栄一がいます。
その大滝の作品に『いかすぜ!この恋』があります。それはエルビスの曲の題名だけを使い歌詞にして歌にしたものです。「♫やさしく愛して 冷たい女 本命はお前だ 今夜はひとりかい 胸が燃える(た)ぜ 冷たくしないで 僕の天使 きみの気持ち教えてね どっちみち俺のもの いかすぜ!この恋 マリーは恋人 忘れ得ぬ人 あなたを離さない・・・・」、30以上の曲名が並びます。大滝のボーカルがいいです。とくにエンディングの「♫いかすーぜ♫いかすーぜ この恋〜」は聞かせます。オシャレな冗談になっています。
まだあります。大滝は自宅のジュークボックスに入っていたエルビスの20曲をそのまま集めて『Eiichi Ohtaki's Juke Box』をCDにしています。冷たくしないで、ハウンドドッグ、キングクレオール、ラヴァー・ドール、G.I.ブルース、ベストは尽くしたが、サレンダー、ロンリー・マン、ロカ・フラ・ベイビー、好きならずにいられない、心の届かぬラヴ・レター、あなたは何処から、ラスヴェガス万才、ホワッド・アイ・セイ、スイムで行こう、ユール・ビー・ゴーン、キッスン・カズン、胸に来ちゃった、イージー・クエスチョン、いかすぜ、この恋。
エルビスの歌の題名だけで、歌を作った作曲家をほかに知りません。自宅のジュークボックスにあるエルビスの曲だけでCDを作ったそんなミュージシャンもいません。大滝はエルビスの最高の理解者で、誰よりも優れたエルビスの紹介者です。ですが、ちょっと待ってください。しかし、しかし、大滝もエルビスを過小評価しています。
3、真実のエルビス
エルビスは1935年に生まれ、1953年18歳で母のためにレコーディングし、それがきっかけで注目されるようになり、1977年に42歳で亡くなるまで音楽活動をします。
そのなかで忘れられない出来事があります。1958~60年の合衆国軍隊での生活です。エルビスが過小評価されているのそこに理由があります。エルビスが真に偉大だったのは、入隊前までです。映画のエルビス、ラスベガス公演でのエルビスはおまけです。強く言うと成れの果ての姿です。
ジミ・ヘンドリックス28歳、ジャニス・ジョップリン27歳、ジム・モリソン28歳、偉大なロックミュージシャンは、若くして世を去っています。エルビスも軍隊に入ったときに音楽活動を終えたと考えるとその姿はハッキリしてきます。おまけとして映画『G.I.ブルース』と『ブルー・ハワイ』はいいとしましょう。1962年でエルビスは引退したと考える、すると、本当のエルビスが浮かび上がってきます。真実のエルビスはここにあります。
まず、全米チャートのナンバーワンの18曲のほとんどは、入隊前のものです。エルビスの全盛期は入隊前です。エルビスは音楽活動の実績のほとんどを入隊前に終えています。
つぎに声が違います。大空に突き刺さり、電波に乗って世界の何処までも飛んで行くような、エルビスの透明な声は、20台で終わっています。エルビスは音楽の神の使いでした。証拠があります。写真集『21歳のエルビス』。そこには神の使いとしてやってきた、若者エルビスが写っています。
そして、エルビスは既成社会への反抗の象徴でした。それが大人の言いなりにあっさり入隊。あってはならないことでした。ロックスターのエルビスは入隊で死にました。
ELVISの名前の文字の並びを変えると、Evils(悪魔)、Lives(神)のふたつの言葉が現れてきます。
Elvis, Evils or Lives? エルビス、彼は悪魔それとも神だったのでしょうか。