時代を開く、ガールズムービー『恋する・ヴァンパイア」

クリエーティブ・ビジネス塾17「恋する・ヴァンパイア」(2015.4.22)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、TOHOシネマズ新宿
昔なつかしい「新宿コマ劇場」のあとにできた、「TOHOシネマズ新宿」のオープンの3日目日曜日のお昼、たくさんあるシアターのうちの小さな映画館の約50席のシート(もっと多いかもしれない)は、ほぼ埋まっていました。70%は若い女性、戸塚クン(戸塚祥太A.B.C-Z」)のファンなのでしょう。彼女たちは映画が終わっても座席から立ち上がろうとしませんでした。いや、立ち上がることが、できませんでした。彼女たちは顔を見合わせ「トヅカクン、ヤバいー!!」、わけの解らぬ感想をもらしています。
映画『恋する・ヴァンパイア』は、ヴァンパイアの「キイラ=桐谷美玲」が、愛してはならない人間の「哲(テツ)=戸塚祥太」を愛してしまう、悲恋物語です。悲恋といっても深刻なドラマではない。客席から忍び笑いが聞こえてくるようなラブ・コメディです。第1にヒロインのキイラは台湾からやって来たヴァンパイアの一族ですが、横浜・元町で「ヴァン・パン屋」というベーカリーを開いています。ふざけていませんか?さらにキイラが開発している新しいメニューのパンはパンダにそっくり、というよりパンダ。瞳がハートのパンダです。そしてパン屋さんは、横浜でライブ・イベントを開き新人歌手を発掘しようとしています。音楽が恋物語の主人公です。音楽がキイラと哲の再会のきっかけになります。恐ろしいはずのヴァンパイアがとてもキュート。パン屋で働き、パンダのパンを作り、音楽祭をやるなんて、うきうきしませんか?!!!そうなんです。原作を書き、映画の監督をしているのは、鈴木舞さんという若い女性=女の子です。だから映画はラブ・コメディ。女の子をたっぷりおもてなしをする、女の子が作った「ガールズ・シネマ」です。女の子は絶対楽しめます。
2、ヴァンパイア
さて、ヴァンパイアとは何か。吸血鬼です。人間の血を吸って生きる、死人が甦った場合もある。血を吸われた人もヴァンパイアになります。不老不死です。苦手はニンニクとシルバー(銀のアクセサリー)。キイラのヴァンパイア家族は、おじいちゃん(柄本明)、ママ(大塚寧々)、それに人間からヴァンパイアにされてしまったパパ(田辺誠一)、そして貰われっ子のキイラです。台湾出身ですが、日本の人間社会に同化するために血を吸わない、と決めています。不老不死も放棄し、アンチ・アンチエイジングの薬を飲み、人間のように歳をとるようにしています。
映画では、ヴァンパイアのゴッドファーザーのような怖いボス(イーキン・チェン)が登場。彼がキイラの家族を監視しています。そしてキイラが人間の「哲」と恋に落ち結婚しそうになると、ボスはキイラを拉致し監禁します。しかしキイラの家族は反発。ヴァンパイアのゴッドファーザーと闘い、最後には哲がゴッドファーザーを倒すことに成功します。でもキイラは哲との結婚の道を選びません。ヴァンパイアとして超能力を哲の「キイラとの恋の思い出」を消すことに使います。哲を好きで好きでたまらないけれど、もし哲と結ばれたら、哲もヴァンパイアになってしまう。そんなことはできない。これぞ、キイラの恋心です。ふたりは恋人のいない日々を過ごします。しかしある日あるライブで、ステージの哲が記憶にないはずの「キイラとの恋のメモリーの歌」を歌います。映画はクライマックスを迎えます。
3、新しいアジア映画
ガールズ・シネマ。ジャニーズ・ファンにも拍手を浴びるような軽い映画です。しかし鈴木舞監督の初めての作品は、ていねいに作られた質の高い作品です。オープニングは映画史上の傑作『素晴らしき哉、人生』(フランク・キュプラ 1946)を思わせます。アニメーションのうまい使い方は、米映画の最高峰ティム・バートンです。キャメラもいいです。光を陰をうまく使っています。印象的なカットが随所にあります。
つぎに香港のイーキン・チェン(鄭伊健)、台湾のモン・ガンルー、韓国のチェ・ジニョクが出演していることもうなづけます。日本映画は、内向き、身内、鎖国の映画です。この映画はアジアの風が吹く世界映画。新しいエンターテイメントの基準を作っています。宮島秀司プロデューサーの力によるものです。
残念があります。音楽がいまいちです。中田ヤスタカと聞いて期待していたのですが・・・。そしてキイラのファッションにも納得がいきません。しかしこれらは、批判する側の感覚が悪いせいかもしれない。
で、最初に書いた、映画を終わった後の劇場の描写に戻ります。
「トヅカクン、ヤバい!!」と言った後の女性は、すぐに「もう一度見たい!!!!」と言い、席に座ったまま立ち上がろうとしませんでした。