クリエーティブ・ビジネス塾3「マンション崩壊」(2016.1.13)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。
1、理事長
親しい友人がマンション管理組合の理事長をやっています。「イヌがうるさい(ペット禁止が規約)」、「マナ違反駐車を取り締まれ(バイクも自転車も)」、「トイレが臭い」、「天井から水漏れしている」、「リフォーム工事の音がうるさい」、「理事会はちゃんと仕事をしているのか」、「駐車場会計が不明朗だ」。彼の話を聞いていると、『2020年マンション大崩壊』(牧野知弘 文春新書)に書いてあることが、現実に進行していることがよくわかります。マンションは建物が崩壊する以前に、住民エゴにより管理できなくなり、スラム化します。原因は住民主役の管理や民主主義の管理組合が機能不全に陥ってしまうからです。
2、管理組合
『2020年マンション大崩壊』では高齢者のクレーマーが管理組合の機能不全の原因である厳しく指摘しています。高齢者は身勝手である。自らの案を採用しないと執拗に抗議する。自分勝手の権利だけを主張する。高齢者が主役の老朽化マンションでは、立て替えの提案にとことん反対し、議論に加わらない。「ワタシは死ぬまでここに住むんだ、ほっといてくれ!」「私の目の黒いうちは勝手なマネはさせない。出て行ってくれ!」(前掲112~113)。コミュニケーションは崩壊し、共同体も崩壊して行きます。その結果、マンションを離脱する人が増えます。マンションには自我だけを主張して建物に居座り続ける人が残ります。マンションは勝手な人たちだけが勝手に暮らす館になります。
夢の住まいであったはずのマンションがなぜこんなことになっていくのか。説明があります。
まず「住宅すごろく」が崩壊したからです。マンションは戸建てを買うまでの一時的な棲家でした。マンションを最初に購入し、それを元手にやがて戸建てを買う。そのあとには若いファミリーが戸建てを買うまで、そのマンションに住む、これが「住宅すごろく」です。しかし現在では老朽化マンションは高齢者だけが住んでいます。さらに子どもたちは親の住むマンションを相続したがりません。そしてマンションは「住みつぶせればよい」ものになります。自分だけよければ、わがままな発想はここから生まれます。だから管理組合は高齢者が望むことしか取り上げなくなります。
こうしてマンションは自分の代だけが住めればよいものになります。マンションは新陳代謝しなくなります。すべての施策は「俺たちには関係ない」。商品としての魅力を急速に失います。「魅力がない」「古くさい」「貸せない」「売れない」。空き室が増えます。最後はスラム化して行きます。老朽化したマンションでは管理組合の理事会も統治機能を失って行きます。理事へのなり手がない、理事会の形骸化、理事会の私物化・・・管理も悪いマンションにはますます人は寄り付かなくなる、崩壊して行くのです。
3、マンションに未来はない
どうしたらマンション崩壊を止められるか。スラム化を止める道はないのか。解決への処方箋はきわめてむずかしい。しかし、『2020年マンション大崩壊』の著者牧野知宏は極めて建設的です。
1)エア・ビー・エン・ビー・(Airbnb)・・・空き住戸を短期間のリースにして、外国人旅行者に貸し付けるシステム。ホテル客室数の不足する「2020TOKYO」の救世主になると期待されています。
2)賃貸マンションを買い取って再販するビジネス・・・借家人のいるマンションをそのまま買い取る。家賃収入があるからリスクは軽くなる。そして借家人が出て行ったら、リホームして高値で売ったり貸したりする。
3)(仮称)マンション整理機構・・・どうにもならないマンションの土地建物をまとめて買い上げる組織です。
出資は国や自治体。権利を売り払った住人は賃貸で住んでよし、引っ越してよし。買い上げた機構は、高齢者のリハビリ施設や検診センターへの変身、さらには新たな施設を建設することもできます。
さて冒頭の理事をやっている友人の話に戻ります。友人はマンションに住む、何人かのハードクレーマー、有力な意見の持ち主と、2時間以上にわたる長時間の面談を繰り返しています。
その印象を聞くと、戦後民主主義のいやらしさ、そのものです。
第1に激しい批判はするが具体的な提案がない。第2に共同体への献身ではなく自己主張が中心である。第3に自らが身につけた戦後の価値観に対して自省がない。ひと言にすれば、いまある問題にどう解決するかではなく、なにか理念的な論争をしたがることです。これらは、民主党政権が東日本大震災でさらけ出した弱点そのもの、つまりマンション崩壊とは戦後民主主義の崩壊に他なりません。