才能はAIに負けるのだろうか。

クリエーティブ・ビジネス塾13「才能」(2016.3.16)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、創造力
広告代理店のクリエーターとして仕事を始め、驚いた経験があります。繊維関係のR社の宣伝会議です。10人ほど集まった宣伝会議で、肝心の企画をそっちのけにして、宣伝部長を中心に猥談(わいだん)ばかりしているのです。
男女の恋愛の探り合いは面倒だから、ナンパしたい人はナンパ「したいマーク」を、されたい人もナンパ「されたいマーク」をつければいい。そうすれば、食事だ映画だ美術館だ、余計な時間と経費のムダを省き、愛は成就できる。ぼくはそのマークをデザインしたい。・・・、・・・。
作曲家のA氏のサインを風俗嬢が持っていた。A氏に問いつめたら、サインして!って頼まれたから・・・。サインしていい場合としちゃ行けない場合があるんだよ。まったく分かっていない。・・・・・・、・・・・・・。
R社は当時、テレビコマーシャルで日本のトップを走っていました。最も創造性のある宣伝部でした。
リエーターにはエロな人が多い。この驚きはやがて確信に変わります。創造力にはエロが必要。エロこそクリエイティブな才能の本質である。
2、芥川家
ある日、文学の芥川賞と音楽の芥川賞の、芥川家のM子さんと仕事をする機会に恵まれます。M子さんは役者、テレビ番組の司会者、映像・イベントのプロデューサーとして活躍しました。M子さんは一流ですが、祖父の龍之介や父の也寸志のように、歴史に残るような仕事をした人ではありません。しかし芥川家の噂話を聞いたり、M子さん本人を見ていると、「才能」というものが何であるかが、はっきりと見えてきました。
まず頭の良さ、理性。これは疑うべくもありません。龍之介は、厚い英語の本を2~3冊持って寝室に行き、朝までにはそれを仕上げてしまうほどの理解力を持っていました。M子さんもおかしな力がありました。一緒に見た映画の細部を再現する、頭の中に優れた録画機を持っていました。芥川家には理解力と記憶力と「ロゴスの力」がありました。
つぎは感受性、感性。このあたりから見知らぬ才能が姿を現します。音楽家芥川也寸志の家では、みんなが異常な感受性を持っていた。飼っていた金魚が一匹死んだ。それだけで家族中が無言に。そしてまた小鳥が死んだで、家族は喪に服し、みながみな、涙に暮れていたのでです。そしてとてつもない恥ずかしがりや。極端な人がいました。M子さんの妹Y子さんです。「芥川也寸志追悼コンサート」のサントリーホールでお目にかかったとき、紹介していただいたにもかかわらず、とうとう最後まで私とのアイコンタクトができませんでした。感受性と情緒、芥川家には「パトスの力」がありました。
最後は性愛と官能。この才能は教科書に書いてありません。芥川の先輩、夏目漱石は龍之介に結婚相手を紹介しようとしました。ところが芥川は断ります。「ぼくは文(ふみ)ちゃんがいい!」。そして幼なじみの文ちゃんを選びます。文ちゃんの写真を神奈川県立近代文学館で見ました。明治の女性にしては、巨乳でグラマー。しかしその文ちゃんはやがて「チャラい」龍之介に悩まされ、手を焼くようになります。さらに文ちゃんのDNAが生きている孫のM子(グラマラス)さんとは、よく恋愛話をしました。「(男女の)出会い頭って、あるのよね。ホント!・・・。」。本能と性愛、やっぱり芥川家には飛び抜けた「エロスの力」がありました。
3、才能の危機
韓国のプロ棋士イ・セドル人工知能「アルファ碁」の囲碁の5局勝負は、1勝4敗で人間の完敗で終わりました(日経3/16)。「実力で抜かれたとは思わないが、心理面や集中力では勝てない」。
囲碁の世界だけではありません。小説の「星新一賞」ではAIが書いたSFが第1次審査を通過しています。音楽の世界では自動作曲システム「オルフェス」が20万曲以上を作っています。さらに、美少女イラスト世界でもAIは活躍しています(日経3/5、3/22)。
日本の囲碁の天才、藤沢秀行は4人の女に家庭を持たせ、正月にはそれぞれの家族全員を集めて新年会をしました。勝負に勝つにはエロスの力が必要です。文学の芥川にも、音楽の芥川にも、図抜けたエロスの力がありました。
私たちエロなクリエーターが、人工知能に負けるはずはありません。「おごりは依然、人間特有の特徴」(リチャード・ウォーターズ フィナンシャル・タイムズ 日経3/13)だそうですが。