日本趣味だけでは、2020東京が、終わりの始まりになる。

クリエーティブ・ビジネス塾17「東京オリンピック」(2016.4.11)塾長・大沢達男
1)1週間の出来事から気になる話題を取り上げました。2)新しい仕事へのヒントがあります。3)就活の武器になります。4)知らず知らずに創る力が生まれます。5)ご意見とご質問を歓迎します。

1、エンブレム
白紙撤回された前回の2020東京五輪パラリンピック公式エンブレムに代わって新しいエンブレムが、4月25日に決定、発表されました。いいデザインです。藍色と白の一色、江戸時代からある市松模様(いちまつもよう)。五輪のエンブレムを構成している図形の組み合わせを変化させていくとパラリンピックのエンブレムに変化するという遊び心に溢れています。作者は野老(ところ)朝雄氏(46)です。
市松模様とは、江戸時代の歌舞伎俳優佐野川市松(1722~1762)がこの模様を袴に使ったから(『広辞苑』)、由緒と伝統の模様です。国民のすべてが納得し支持できる決定です。異存はありません。
では白紙撤回された前回のエンブレム(Tエンブレム)と比べてみるとどうでしょうか。
「市松エンブレム」は藍一色、日本の伝統を意識しているの対して、「Tエンブレム」は金・銀・赤・黒の4色。東京、ティーム、トゥモロウのTをモチーフにし、日の丸を付け加えただけのものです。
市松エンブレムを簡単に手書きすることはできませんが、Tエンブレムは簡単に再現できます。Tエンブレムには単純さ、強さがあります。「市松エンブレム」決定に異論はないにしても、「Tエンブレム」実現できなかった無念が残ります。Tエンブレム(佐野研二郎氏制作)は、ベルギーのリエージュ劇場のロゴに似ている、と作者オリビエ・ドビから指摘され、盗作問題になり撤回されています。
2、新国立競技場
同じようなことが新国立競技場の建設計画で起こっています。46点の応募があった「新国立競技場基本構想国際デザイン・コンクール」の国際コンペの結果2012年11月に、バクダッド生まれロンドン在住の女性建築家ザハ・ハディド(1950~2016)の作品に決定しました。
しかし、このザハ・ハディド案(アーチスタジアム案)は建設費が2500億円と高額すぎると白紙撤回され、新たに国内のふたつの設計グループだけに絞ってコンペ行われ、2015年12月に隈研吾案(木と緑のスタジアム案)が決定します。「木と緑スタジアム案」の決定にも、市松エンブレムと同じように異存はありませんが、「アーチスタジアム案」を実現できなかった無念さが残ります。
木と緑案は、日本建築の伝統を受け継ぐ木造を基軸にしたもので、神宮の森にふさわしいものです。対してアーチ案は、度肝を向く巨大アーチに支えれた奇想天外の構造物で、神宮の森の調和を崩すものです。アーチ案は飛来した宇宙船のようなインパクトがあるもので、東京の景観を根本的に変えてしまいます。
3、ネゴシエーション(交渉、話し合い)
2020東京五輪パラリンピックは、2013年9月のIOC総会で決定しました。東京と争ったのはイスタンブール(トルコ)、マドリッド(スペイン)です。なぜ東京が選ばれたか。
まず高松宮妃久子さまあいさつで始まる、安倍総理以下のプレゼンテーションが完璧だったことがあります。日本のスタッフは英語を主軸にIOCの公式用語であるフランス語を使い(日本語なし通訳なし)国際規格のプレゼンテーションを行いました。2020東京の売りは、コンパクトですが、史上最大のオリンピックになることでした。これが、アジア人とアラブ人の心に響きました。2020東京は、ユーラシア大陸のプライムタイムに、テレビ放送されます。視聴者は40億人で史上最大、つまりユーラシア大陸の巨大なマーケットのアプローチできるオリンピックになります。東京決定を喜んだ日本経済新聞は、社説で「その国の歴史のひとつの転換点になる巨大イベントだ」、と祝福しました(2013.9.10日経)。
2020東京はグローバルスタンダードで、日本の歴史の転換点になる、オリンピックにしなければなりません。なぜ「Tエンブレム案」と「アーチスタジアム案」には実現できなったのか。どちらも、グローバルコミュニケーションの常識「ネゴシエーション」(交渉)次第で、簡単に解決できるはずの問題でした。ベルギーとは金(かね)でネゴシエーションが可能だったはず。さらに「アーチスタジアム案」ではザハ・ハディド側に再デザインを要求できたはずです(なんということ、ザハ・ハディドは3月31日に亡くなりました)。
「木と緑のスタジアム」を飾る「市松エンブレム」、これではまるで「国立葬儀場」、と揶揄(やゆ)した写真がネットに投稿されました。これは決して悪い冗談ではない。国際社会で日本を主張しない事なかれ主義、日本はいい国だという仲良し主義、国家間の争いに目を閉じる平和主義で、人口減少の日本はますます加速して地球上から姿を消すことになります。