映画『FAKE』を見よう。佐村河内守はペテン師ではない。

クリエーティブ・ビジネス塾26「佐村河内守」(2016.6.13)塾長・大沢達男

「映画『FAKE』を見よう。佐村河内守はペテン師ではない」

1、満員
聴覚障害のある作曲家佐村河内守(さむらこうちまもる)問題をテーマにしたドキュメンタリー映画『FAKE』(森達也監督)の上映が始まりました。大変な混雑です。映画館に二度通い、やっと見ることができました。
フィクションではありません。事実だけを記録したドキュメンタリーです。カメラは佐村河内さんの部屋にあります。手話通訳をする奥さんと佐村河内さん、そしてインタビューをする森監督が対決します。佐村河内さんは光に弱い、だから部屋は暗い。そして聴覚障害があるせいか、録音は大きめで、聞きづらい。ひとつ救いがあります。佐村河内さんのネコが時々登場して、癒してくれます。かわいい。
1)佐村河内さんはペテン師ではない。作曲家としてたぐいまれな能力を持った人である。
2)佐村河内さんは、聴覚障害者ゆえに、いわれのない差別を受けている。
3)佐村河内さんは、被爆者二世としても、差別を受けている。
映画は、噂、報道、常識を、すべてエビデンス(証拠)をもって否定します。しかし、真実はいぜんとして闇のなか。なぜなら、ことの発端になった<全聾(ぜんろう)の作曲家はペテン師だった>を週刊文春に書いた、神山典士(こうやまのりお)氏と、<私は18年間、佐村河内守ゴーストライターをしてきました>と告白した作曲家・新垣隆(にいがきたかし)氏には、インタビューを拒否されているからです。
2、週刊文春
「全聾の作曲家はペテン師だった」「黒装束にサングラス姿、障害のために杖をつき、左手には白いサポーター。全聾の上に様々な困難を背負う男は『絶対音感』を頼りに作曲を続けてきたー。だがそれは、幾重にも嘘で塗り固められた虚飾の姿だった。十八年間、『共犯者』を務めた男の懺悔告白。」(『週刊文春』2014.2.13 p.24~25)。
この記事がすべての発端でした。なぜ新垣隆氏はゴーストライターと告白することになったのか。
1)18年間ゴーストライターをやって来たが、佐村河内はどんどん有名になった。いつかはこの関係はばれる。何らかのかたちで真実を公開しなければならない責務を感じ始めた。
2)ソチ五輪フィギュアスケート高橋大輔選手が新垣隆氏作曲(佐村河内作曲)の『ヴァイオリンたのためのソナチネ』が使われることになった。高橋選手に真実を知ってもらいたいと思った。
しかしここからが週刊誌の複雑のところです。見出しと正反対の記述が続きます。
佐村河内氏と新垣氏は20年前の1996年に、33歳と25歳のときに会っている(佐村河内氏は33歳で左耳の聴力を失い。35歳で完全に聴力を失う)。「このテープにはとある映画音楽用の短いテーマ曲が入っている。これをあなたにオーケストラ用の楽曲として仕上げてほしい。私は楽譜に強くないので」(前掲p.27)。これが最初の依頼。しかし作品は佐村河内の名前で発表する。新垣は演奏家としてクレジットする。
その結果が、『交響曲第一番HIROSHIMA』の約18万枚の大ヒット。そしてヒットゲーム『鬼武者』のテーマ音楽です。佐村河内氏は米誌『TIME』(2001.9.15)で「現代のベートーベン」として紹介されます。
1)佐村河内氏の作曲の依頼は執拗なまでに細かかった。
2)佐村河内氏は言葉と図で一時間を越える曲想(コンセプト)を書いている。これをもとに新垣氏はメロディを紡ぎだし、オーケストラ用のパート譜を書き起こす。
3)佐村河内氏はセルフプロデュースと楽曲のコンセプトワーク(ゼロを一にする能力)に長けている。新垣氏はそれを実際に楽曲に展開する力(一を百にする能力)に長けている。
二人は奇跡的な出会いであった(前掲p.28)、とまで書いています。クリエーティブの美談です。
3、クリエータ
まずこれは、新垣氏と佐村河内氏のふたりのクリエーターの問題です。約束が違うなら、交渉すればいい。裏切ったのは新垣隆氏です(ネットでは評判がいいが、映画ではワル)。
つぎになにが「共犯」、これは犯罪なのでしょうか。クリエーティブはコラボレーション(共同製作)です。音楽には作曲と編曲があり、映画には脚本と演出があります。アニメの宮崎駿はひとりで作画していません。
そしてクリエーティブはコンセプト。最大問題は、何を作るかです。技術屋にクリエーティブはできません。
「FAKE」とは、偽造、見せかける、いんちき、です。佐村河内守氏はフェイクではありません。映画を作った森達也監督に拍手です。